リクエスト

□あと一歩
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ともに帰る帰り道。
前を歩く背中は曲がったことがないんじゃないかってくらいまっすぐ伸びている。
綱吉はその背中を一歩あとから追いかける。
手を伸ばしてもぎりぎり届かない距離。一人では手をつなぐことのできない距離。
その距離を保って雲雀と綱吉は歩いていく。
綱吉が少しペースを緩めた。雲雀との距離が少し伸びる。


「…沢田?」


雲雀が立ち止まり、振り返る。
綱吉も立ち止まる。雲雀は少し首をかしげた。


「早かった?」


疲れたのかと聞く。
綱吉は無言で首を横に振った。そう、と雲雀が目元を和らげる。
あれは安心した時の顔。綱吉は雲雀の微細な表情の変化を読み取れるようになっていた。それだけの時間を過ごしていた。
放課後のお茶会、そして一歩分の幅を開けて一緒に帰る。それが綱吉と雲雀の日常だった。


「ヒバリさん。」
「なに?」
「……行きましょう?」
「うん。」


再び歩き出す。一歩分をあけて…
他人に見えないけど仲良く見えない距離。手をのばしてもらわないと手がつなげない距離。
綱吉が大きめに一歩を踏み出す。少し近づく。雲雀が少しペースを速める。少し遠ざかり、また同じ距離。
綱吉がはぁ、と息を吐く。雲雀は振り返らない。


「……あと一歩。」


綱吉は背中を見る。
着かず離れず。まさしくその通りの距離。
期待するには、あと一歩。








後ろをひょこひょこ付いてくる茶色い頭に注意を払う。
少し遅れれば立ち止まり…近づいてくれば離れる。意識に入るぎりぎりを保つ。
雲雀は見てくる視線を背中に感じながら、気づかれないくらいに後ろを振り返る。日常になった光景。
親鳥の後を付いてくる雛鳥のようだと思い、自分の想像に笑みがもれた。


「ヒバリさん?」


その気配を感じたのか綱吉が不思議そうに声をかけてくる。


「なんでもないよ。」
「そうですか?」
「うん。」
「はぁ…。」


曖昧な返事で流した綱吉をまた振り返る。眉を寄せて小難しい顔をしている。
雲雀は大方なにか面白いものなんてあったのかと意味のないことで悩んでいるのだろうと見当をつける。
あの子はとてもわかりやすい。馬鹿だなと思いながら、ふと綱吉の垂れ下がった手に視線がいった。
小さな柔らかそうな手。
雲雀は自分の手を見る。自分とは違う手。


「……。」


じっと見て、見て…ふぅ、と手を下ろした。
そして見る。一歩分。
雲雀が自分であけた距離。特別なようで特別ではない距離。
そしてギュッと眉を寄せた。
期待しつつも決断できない距離。埋められない。


「……あと一歩。」


雲雀は手を見る。伸ばそうとして諦める。
相手も伸ばしてくれないとつなげない距離。
掴むためには、あと一歩。




あと一歩。




それが彼らの今の距離






                             2013/02/28 初書き           
                             2013/03/13 掲載
→あとがき
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