頂き物

□海と水着と彼女
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 デパートの水着売場。そこは、雲雀恭弥という人物には不似合いな場所だった。そもそも、海やプールで遊ぶという印象が、この並盛最強の風紀委員長様にはまったくない。しかし今、彼はカラフルな水着に囲まれている。
 雲雀がこの場にきたのは偶然だった。デパート近くでカツアゲ集団を発見し、咬み殺したは良いがその中の一人がなかなかすばしっこい奴で、この水着売場の近くまで逃げ込んだ。捕まえて咬み殺し、久しぶりに楽しい鬼ごっこだったと満足して帰ろうとしたその時だ。見つけてしまったのだ。ふわりと揺れる琥珀色の髪を…
 それが、雲雀の視線の先に居る沢田綱吉だ。
 彼女は友人達と水着選びに夢中で、雲雀に気付いていない。

「でも、それは可愛すぎて俺には似合わないよ」
「なに言ってんのよ。アンタが今持ってるのはシンプルすぎ。こっちの方が絶対に似合うわよ!」
「私もツナちゃんにはこっちの方が似合うと思うよ」
「ハルもそう思います!」
「私も…」
「そうね。ツナにはこっちよりもこっち」
 一緒に居るのは黒川花、笹川京子、三浦ハル、クローム髑髏、そして綱吉からシンプルな水着を取り上げて、可愛い水着を渡したビアンキだ。
「着たいものを着るのはいいけど、ツナは無難なものを選んでるだけでしょ?」
「う…それは…」
 図星を突かれて、綱吉は言い返せない。
「じゃあ、こっちで決まりね」
 結局、みんなのオススメを買うことになったようだが、確かにその可愛い水着の方が綱吉にはよく似合うだろう。
「ツナさんが海でそれを着るの、楽しみですね!」
 ハルの陽気な声が売場に響く。

 それは、雲雀にもはっきりと聞こえた。彼は、海という言葉にピクリと反応する。夏に水着を買うのだから、それを着る場所に行くのは当然だろう。しかし、海といえば当たり前たが男も多い。そんは場所に可愛い水着姿の綱吉。本人は無自覚だが、母親似の可愛らしい顔立ちなのだ。それなりに注目されるだろうし、声を掛けてくる男もいるかもしれない。それを想像しただけで、雲雀は腹が立った。何故そんなに腹が立つのか、理由は単純。綱吉のことが好きだからだ。
 とはいえ、雲雀がこの気持ちに気付いてからまだ日は浅い。しかも、自分の中に芽生えた初めての感情を持て余した彼は、気のせいかもしれないと今まで放置していたのだ。
 だが、もう気のせいとはいえない。事実、彼は今、綱吉の水着姿を別の男に見られるかもしれないというだけで苛立っている。それは嫉妬や独占欲というものだ。
 しかしそれが分かっても、海に行くなとは言えない。雲雀は綱吉の守護者ではあるが、恋人ではないのだ。いや、恋人だったとしても、友達と海に行くことまで止めさせる権利などないだろう。それでも、止めさせたいと思ってしまう。
 雲雀は今までの自分が、どれほど綱吉への感情を抑えていたのかを知り、愕然とする。
 綱吉達が楽しげにお喋りをしながら水着売り場を後にするまで、雲雀はその場に立ち尽くしていた。





 青空が眩しい海水浴日和。並盛の海水浴場は、多くの人で賑わっていた。その中には、先日水着売場に居た女性陣も見受けられる。
「やっぱりさ、この水着…俺には似合わないんじゃ…」
「ええ!?そんなことありません!よくお似合いです!」
 自分の容姿にとことん自信がない綱吉に、ハルは絶対似合うと力説する。
「でもなんか、妙に人の視線を感じるんだけど…」
「それはツナさんが可愛いからですよ!」
「そうだよ。その水着、ホントによく似合ってるもの」
 ハルや京子はそう言ってくれるが、綱吉はやはり自信がない。恥ずかしさから縮こまってしまう。その仕草がまた可愛らしいため、更に人目を惹きつける。

 そんな綱吉の様子を、雲雀は離れた場所から見ていた。結局彼は来てしまったのだ。
 とはいえ、綱吉をデレデレと見ている輩を咬み殺しに来たのではない。いや、そうしたいのは山々なのだが、如何せん数が多すぎる。
 来ることを決めた一番の理由は、今回、海に行くメンバーが女性ばかりだと知ったからだ。どうやら話しているうちに盛り上がり、たまには女の子だけで遊びに行こうということになったらしい。
 雲雀にとって、綱吉の近くに男が居ないのは良いことなのだが、それは牽制する者もいないということだ。そういう点では、常に綱吉の傍に居る獄寺隼人や山本武は良い番犬代わりだった。
 しかしそこは弟の代わりとばかりに、寄ってくる男共はビアンキが対処してくれている。彼女もまた裏社会の人間だ。ナンパ目的の男のあしらいなど、マフィア相手に比べれば気楽なものなのかもしれない。
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