頂き物

□お家デート
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 しとしと雨が降っていた。今日はせっかくの週末だというのに朝からこんな感じで、止みそうにない。
 そんな天気だというのに、沢田綱吉は随分と機嫌良く雨の街を歩いていた。彼女の目的地はお付き合いをしている恋人、雲雀恭弥の家だ。
 本当は、今日一日デートのはずだったのだが、雲雀の都合で半日になり、しかもこの雨でお出掛けから家デートになってしまった。それでも綱吉は機嫌が良い。近頃忙しく、すれ違いばかりだった雲雀と久しぶりにゆっくりできる。一緒に過ごせるだけで嬉しかった。
 雨の中、綱吉の差した花柄の傘が、大きな門の前で止まる。とても個人宅とは思えない此処は、雲雀の家だ。既に何度か訪れたことのある綱吉だが、その立派な佇まいに、いまだ圧倒されてしまう。

 相変わらずでっかいな〜…

 なんてことを思いながら呼び鈴を鳴らせば、中年女性のお手伝いさんが出てきて中へと入れてくれた。誰かなんて訊かれない。綱吉は既に、跡取り息子のお嫁さんになる人として認識されていた。
 これまた広い玄関から家に上がる。雲雀の家族のうち、誰か一人でも居れば出迎えてくれるのだが、今日は不在で帰るのは明日の夕方になるという。
「恭弥様もお仕事が終わらないみたいで、書斎に籠もりっきりなんですよ」
「…書斎?」
「ええ、ですから綱吉さんが来られたら、そこにご案内するように言われてます」
 お手伝いさんの後ろに付いて、いつもは通らない廊下を歩く。この家はとにかく広くて、綱吉はまだ全てを把握できていない。
「それにしても書斎なんてあったんですね」
「ええ、この家でも一番外れの辺鄙な場所にあるんですよ」
「へぇ…」
「でも、恭弥様はそこがお気に入りのようで、自分が居るときは誰にも立ち入らせないのですけど…」
 お手伝いさんはちょっと悪戯っぽく、チラリと綱吉を見た。
「綱吉さんは、お入れになるんですよね」
「…え?」
 言われている意味がよく分からず首を傾げている綱吉に、お手伝いさんはクスクスと笑う。
「綱吉さんは恭弥様の特別ってことですよ」
「……あ…」
 ようやく意味を理解して、綱吉は頬を赤く染める。嬉しい反面、気恥ずかしい。
「そ、それより辺鄙な所って、どんなとこなんです?」
 恥ずかしさを誤魔化そうと話題を変えたのだが、お手伝いさんは急に真顔になって、声を落とした。
「それがですね。そこは昔、座敷牢だったって言われてるんですよ」
「座敷…ろう…って…えっ牢屋!?」
 何やら物騒な話になってきた。青ざめる綱吉に、お手伝いさんは驚かせ過ぎたと苦笑する。
「噂ですよ。噂。半地下になってるんで、そんな風に見えるだけだと思いますよ」
「…な、なんだ…そうなんですか」
 ホッと息を吐く綱吉だが、実は雲雀家にはもっと怖い噂が数多く存在している。しかし想像以上に怖がりだった綱吉に、お手伝いさんは賢明にもそれを話さないでおくことに決めた。





 案内された書斎は、確かに家の外れで半地下にあった。しかし、座敷牢から連想されるおどろおどろしい感じはしない。ただ、短い階段を降りた先の重厚な扉に、綱吉は違和感を覚えた。それは、襖や障子によって仕切られている純和風な雲雀家で、この扉だけが西洋風の造りだったからだろう。
 その扉の前まで行くと、お手伝いさんは横に付けられたらボタンを押す。すると、どこからか雲雀の声がした。
「なに?」
「綱吉さんをお連れしました」
「分かった。入って」
 雲雀の声は生の音ではなく、機械を通したものだ。よく見れば、ボタンの横にスピーカーらしき物が埋め込まれている。恐らく、ボタンは呼び鈴なのだろう。
「ここは完全防音なので、外から声を掛けたくらいじゃ聞こえないんですよ」
 何故、家の中でそんな物が必要なのか不思議そうにしていた綱吉に、お手伝いさんが教えてくれた。
「扉もかなり頑丈なものだから、ノックしたくらいじゃダメなんですよ」
 言いながら、確かに頑丈で重そうな扉を開けてくれる。その向こうは、少し不思議な空間が広がっていた。
 床は畳敷き。しかしそこにはアンティークのテーブルや椅子が置いてあり、両脇の壁には本がぎっしり詰まった棚が備え付けられている。窓は無く、天井からの光はLEDライトだった。何というか、和洋折衷、新旧混合。それでいて、奇妙な統一感がある。
 綱吉はそんな部屋に、恐る恐る足を踏み入れた。お手伝いさんが、後でお茶とお菓子を持ってきますねと言って扉を閉める。
 雲雀は綱吉に背を向けて座っていた。正面の壁にピタリと付けられた状態の机で、パソコンの操作をしている。

 雲雀さんがパソコンって珍しい…

 雲雀は紙媒体が好きらしく、学校では書類も日誌も全て紙だ。
「ごめん綱吉。なかなか終わらなくて…座って待ってて」
「あ、は…」
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