頂き物

□暴発クッキング
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 厳しかった寒さも和らぐ三月。朝晩はまだまだ冷え込むものの、日差しが降り注ぐ日中は暖かさを感じる。そんな穏やかな昼下がり、しかし並盛中の家庭科室からは、穏やかならぬ爆音が轟く。何をどうやったのか、オーブンが爆発したのだ。

「また、失敗か…」

 無残に壊れたオーブンの前で、雲雀恭弥はその端正な顔をしかめる。あれだけの爆発だったにも関わらず、傷一つないのは流石だが、その格好は普段からは想像もつかないエプロン姿だった。紺色のデニム生地で作られたエプロンには、雲雀がいつも連れている黄色の小鳥に似たワンポイントが付けられてはおり、なんとも可愛らしい。
「い…委員長。やはり原因をはっきりさせないと…これで駄目になったオーブンは八台目です」
 テーブルの影から草壁哲矢が現れた。こちらは完全に無事とはいえず、自慢のリーゼントの先が焼け焦げてしまっている。
「原因…ね…」
 雲雀は持っていたお菓子の本を開く。そこには、ホワイトチョコクッキーの作り方が載っていた。
 誰もが恐れる風紀委員長が何故クッキーを作っているのかといえば、それは先月のバレンタインにまで遡る。ちょっとした勘違いから、雲雀が誰かに手作りのチョコレートを贈るのだと噂になってしまった。噂自体は大したことなく収まっていったのだが、その噂を鵜呑みにして、玉砕覚悟で告白してきた沢田綱吉のために手作りのお菓子をあげると約束したのだ。ホワイトチョコクッキーになったのは、綱吉がなんでもいいと言うのでチョコを使ったホワイトデーらしい白いお菓子、という単純な理由だったのと、手持ちの本に作り方が載っていたからだ。
 それが噂の元となり、今雲雀が手にしている『本命に贈る手作りチョコ』という本だった。
「この本の通りに作ってるんだけどね」
 何度やっても失敗してしまう。それも、オーブンが爆発するという有り得ない現象でだ。
「自分も作り方は間違っていないと思います。やはり原因はアレではないでしょうか?」
 草壁がチラリとみた先には、オーブンを爆発させた物がある。それはクッキーだ。しかし、見た目にはクッキーだと分からないほどに膨張し、まるで入道雲のような形になっている。
 どうしてあんなことになってしまうのか。考えられる要因はただ一つ。それは雲雀の属性だ。増殖という特徴を持った雲属性の炎がクッキーに練り込まれ、オーブンで焼く段階になると一気に解放されるのだろう。そこまでは最初の段階から察しがついていた。
「でも、炎が出せる物はなにも持ってないよ」
 炎を灯せるような指輪は雲雀の指に、はまってはいない。腕輪型のボンゴレ・ギアは、料理をするには邪魔だからと最初から外していた。
「ええ、ですが委員長…その…獄寺隼人の姉をご存知ですか?」
 いきなり出てきた獄寺隼人の名前に、雲雀は眉を寄せる。姉はともかく、綱吉の周りをウロチョロし、自分を見れば威嚇してくる獄寺の存在は、雲雀にとって面白いとは言えない。
「一応、知ってはいるけど、それがなんだって言うの」
 獄寺の姉、ビアンキは綱吉と同居している。しかも、雲雀が戦いたい相手として一目置いているリボーンの自称愛人だ。当然知ってはいるが、ビアンキそのものにはあまり興味がないので顔はよく思い出せない。
「彼女は作る料理が必ず毒物に変わるという能力の持ち主です。変えようと思っていなくてもです」
「ああ、それは聞いたことがあるかな」
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