頂き物

□クリスマスデートの正しい計画
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それは、かなり気合いの入った上下一揃えの下着だった。色は淡いピンク。リボンとレースが可愛くあしらわれ、肌触りは滑らか。普段着けている下着よりも、少々お高めな物だ。以前友人から、こういうちょっと良い物も持っておきなさい。と買わされた一品だった。
 そんな下着を手に、沢田綱吉は非常に難しい顔をしている。
 今日は十二月二十四日、クリスマスイブ。綱吉は一ヶ月程前からお付き合い始めた雲雀恭弥とデートの約束をしているのだが、そこにこの下着を着けて行くかどうかで悩んでいた。

「もう、黒川があんなこと言うから…」

 口を尖らせ友人の迂闊な発言を呪う。
 それは数日前のこと。黒川花と笹川京子に、雲雀とクリスマスイブにデートへ行くのだと、そんなノロケ話をした。

「へえ、遊園地のクリスマスイベントに行くんだ」
「あの雲雀さんが遊園地…」

 京子は良かったねと言ってくれたが、花は微妙な表情だった。だが、それも仕方ない。群れることが大嫌いな風紀委員長がクリスマスデートで遊園地なんて、少し前なら信じられないと笑い飛ばしていたことだろう。

「よく行く気になってくれたわね」
「でも、雲雀さんが誘ってくれたんだよ」
「ええ!?」

 それは更に驚きだ。雲雀が遊園地に誘うなんて、花には想像もつかないらしい。

「あ〜でも、自発的にっていうよりは誰かに言われてそうしたんだと思う」

 綱吉はその誰かが、きっと自分の兄弟子なのだと確信していた。
 自分の兄弟子であり、雲雀の家庭教師でもあるディーノ。雲雀と綱吉が付き合い始めたことを知った彼が突然来日したのは、十二月に入って間もない頃のことだ。自分の弟子と妹弟子のお付き合い。それはディーノにとって少しばかり複雑なものがあったらしいが、まだまともにデートもしたことがないと知ると、よし、俺に任せとけ。なんとかしてやる…なんて言って何やらとても張り切っていた。

「遊園地の後、食事に行くんだけどさ。そこのホテル、ディーノさんがいつも使うところだし…」

 ディーノがというよりは、ボンゴレ関係のマフィア御用達になっているようなホテルだ。だからそこで食事と言われた時、綱吉はやっぱり仕掛け人はディーノさんかぁ…と思ったのだが、花はまったく違うことが気になったらしい。

「ホテルで食事するの?」
「え?うん。正確に言うと、そこのレストランでだけど…」
「…まさか、部屋とか取ってない…よね?」
「…部屋?」

 綱吉は首を傾げる。花が何故部屋などと言い出したのかが、まったく分からなかった。

「花、それは…」
「だって、お決まりのデートコースじゃない。クリスマスイベント、ホテルでの食事。その後は部屋でやることや…」
「花!」
 
いつもはのんびり構えている京子も、流石に慌てて止める。花が言っていることが理解できなくて、ポヤンと聞いていた綱吉も徐々にその意味が分かってきたらしい。その顔がゆっくりと赤く染まった。

「な…そ、そんなことあるわけないじゃん!そういうのは、大人の人のデートだろ!」

 真っ赤になって否定する。中学生のデートに、いくらなんでもディーノがそこまで用意するとは思えない。

「あ…そ、そうよね。ごめんごめん」
 
ちょっと暴走してしまったと謝りながら笑う花に、その時はまったくだよなんて文句を言っていたのだが…


 一度気になりだしたことは頭で否定しても、なかなか消えてはくれない。だから綱吉は下着を前に悩んでいるのだ。

「いやいや、まさかだよ…まさかなんだけどさ…」

 そう言いつつも、万が一を考えてしまう。そして悩んだ末に、綱吉は今着けている下着を脱ぐとピンクの可愛いソレを着け始めた。
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