ミックス(混合)

□破った約束を再び誓う
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表の人間が知ることのない場所。



ここはそういう場所だ。そしてそんな場所のある一室で狡噛は本を読んでいた。









槙島を殺してからすでにいくらか月日がたった。
その間に狡噛はシビュラから身を隠すためにその恩恵の届かない遠く離れた場所まで逃亡した。
死ぬつもりはなかった。
少なくともシビュラに裁かれる気は微塵もなかった。
自分が裁かれるとしたら、あの少女のような上司の手だと決めている。
そんなことが頭に浮かんだ狡噛は読んでいた本を投げ、嗤う。
都合のいい話だ。
彼女との約束を破って、追いかけてきてくれた彼女の願いも断ち切って、それで目的を果たしたのに…それでも…


「俺はお前に裁かれたい…」


朱…。
狡噛は一度だけ呼んでしまった名前を口の中で呟く。









ハッと何かに気がついたように瞑目していた狡噛の表情がこわばった。
ゆっくりと音がしないように移動する。
ぴたりと扉の横に張り付いた。そして、外の気配を探る。
自分以外が知るはずのない部屋。
そこに近づく気配に緊張する。
だが相手はそんな狡噛を知らず、気配を隠すことなく近づいてきた。話し声が聞こえる。


「さっさとしな。」

「わかっていますよ。…でも、どうすればいいですかね?」

「なにが。」

「挨拶ですよ。…お久しぶりです?こんにちは?お元気ですか?」

「…ものすごくどうでもいいんだけど。」

「何言うんですか!!大切ですよ!!!これから力を貸してもらおうと勧誘するんですよ!!?第一印象は大事です!!」

「……どうでもいい。」

「そんな呆れた目で言わないでください!!」

「じゃぁ、早くしてくれる?」


じゃないと、この辺全部吹き飛ばすよ。
物騒な台詞に扉の向こうも聞いていた狡噛もギョッとする。


「あわわわ!!!ス、ストップ!!スト――プ!!!わかりました、サッサとします!!だからお願いです!!壊さないでぇぇ!!」

「最初からそうすればいいんだよ。」


理不尽!!と心の中で叫びながらも、一つ息をつくと扉をノックする。


「すみませーん。」


狡噛は開けるかどうか迷う。
一瞬の葛藤の末に鍵を外し少しだけあけた。
とたんにガッと白い手が淵をつかむ。
狡噛はギョッとして後ずさる。
すかさず手の持ち主が部屋に滑り込んだ。
その様子を見ていたもう一人は押し売りセールスのようだと思ったとか。
それを知らず、滑り込んだ方はにこやかに言った。


「こんにちわ!!正義の組織に加入しませんか!!!?」


沈黙が落ちる。
その空気に、え…はずした!?と思い、固まったのが約一名。
馬鹿な子、とため息をついたのが約一名。
まさかの人物と展開に笑うこともできずに唖然としたのが約一名。
そんな微妙な空気を自分で何とか笑い飛ばし、見た目少女な青年は言う。


「あははっは、は、は………すみません。俺、沢田綱吉と言います。こちらは雲雀恭弥さん。どうもお久しぶりです。」


あの時の猟犬さん。

そう泣きそうな、気まずそうな顔で言ったのは一度だけ会ったことのある、それでも決して忘れられなかったあの青年たちだった。
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