ショート(復活)

□嘘つきの純愛
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すべてのものを彼の隣りに置いていこうと思っていた。
捨ててしまったものをわざわざ拾い上げて彼の隣りに置いていた。
不法投棄に等しいことだと知らずに。












少女が俺を訪れてから三日後。
様子を見ていたけれど雲雀さんは何も変わらず、少女も現れなかった。
でも、ポストにポツンと白い封筒が届いた。
綺麗で上質な紙でできたそれは結婚式の招待状だった。
まだだいぶ先ですけれどなんて書き込みにすとんと力が抜けた。
それとともに同封されていた紙に笑みがこぼれた。


「…嘘じゃないんだね。」


嘘であってと願っていたなんてなんて嘘。
目を閉じてその時すべてを捨てた。
世の中を不条理だと、理不尽だと罵るには俺はあまりに汚すぎた。
いつだか何を考えているのか分からないと言われた表情の下で押し殺し、黙殺しつづけた感情はいつの間にか腐敗して周りを真っ黒に汚していた。


俺は醜い。少女は美しい。


少女が本心ではお家のため、体裁のため、両家の繁栄のため、自らのプライドのため、自分のため、そんな理由で俺にあのことを告げたのだとしても、少女は俺よりはるかに美しい。
彼にふさわしい。
だって彼女は正直だ。その行動が、まなざしが、迷いない。
まるで彼のように。きっと彼女は誰に恨まれたって目の前を向いているんだろう。


その高い矜持とともに。


すべてを騙して目をそらし続けた俺とは比べるのもおこがましいほど違いすぎる。
彼女とも、そして彼とも。
それは間違いようも、覆いようも、逸らしようもないただ一つの真実だった。


「雲雀さん。」


ずっと、ずっと呟いている。
少女に会ってからずっと。
手が震えている気がする。気のせいに決まっている。



「雲雀さん。」


とても、とても空がきれいです。
だからずっと上を向いてます。


「雲雀さん。」


でも太陽は眩しいから、目を閉じていますね。


「雲雀さん。」


漂う雲はまるであなたのようだと何度思ったことでしょう。
掴みどころがなく自由気ままで何物にも変容しない。本当にあなたのよう。


「雲雀さん。」


真綿にくるまれた安息の季節は終わりを告げます。
雲は再び漂い始め、黒く染まった雲より堕ちた空は海に沈むのでしょう。





お別れのときですね。





目の前が暗くて、暗くて涙が出そう。
きっと目をつぶって瞼が疲れたからだ。


















「……最後ならいいのかな。」


主のいない応接室の前で一通の手紙を持ったまま呟いた。
今は授業中。彼は外の見回り中。
だれも来るはずないし、誰もいない。ならいいのかもしれない。


「もう、最後…だもんね。」


最後に少しくらい素直になってもいいよね。
だってもう一生しないから。


「いいよね。」


勝手に決めた。

そう思うと一気に止まらなくなった心があふれ出す。
全部、全部、ここに置いていこう。この心だけだから。
隣なんて絶対に置かないから。せめて一番近くて遠いこの場所で。














ボロボロと涙が止まらない。


「雲雀さん…!!!」


どうして、どうして、どうして…!!!いってくれなかったの?教えてくれなかったの?あなたの口から聞きたかった。
それがどんなにひどい言葉でもつらい言葉でも、せめてあなたの口から聞きたかったの。
泣いて縋りたかった。あなたと離れたくはないって縋りついて纏わりついて離したくなんてなかった。
大好きです。愛してる。あなた以上の人なんているわけがない。あなたにすべてを捧げてしまいたかった。

悲しい。哀しい。愛しい。

あなたを失うことが。離れることが。忘れられてしまうことが。あなたに関する全てが。そして何よりあなたを嘘つきだと思ってしまう自分が。

哀しい。悲しい。愛しい。

今からでもいい。ここにきて。抱きしめて。愛をささやいて。嘘だと言って。悪い夢だと思わせて。幸せなままでいさせて。
だれに化け物と罵られても、誰かを傷つけても、あなたの傍に俺がいられるのならばもう目を逸らしたりしないから。


「愛してる。あいしてる…!!!!」


あなただけ。

ずっと、ずっと、信じてる。全部嘘だったとしても。信じてるの。
嘘つきって思ってもあなたを信じてる。愛してる。
この気持ちに一つも嘘はないんだ。




真っ白で輝かんばかりの俺の唯一。



「雲雀さん…!!!!」
さようなら。さようなら。愛しい人。
ごめんなさい。この気持ちは置いていけない。













扉の隙間に手紙を差し込む。
最後に精いっぱいの笑顔を向けて応接室に背を向けた。




堕ちた空は海の底。二度と雲のもとへは上がれない。





















そのままの足で学校を去る。彼の愛する学校。
俺はもうここにもいられない。同封されていた紙。
とある寮制の女学校への入学届。
断ることなんてできなかった。


「…さようなら。」


もう会うことはないのでしょう。それでもずっと…。







嘘つきの純愛












FIN  2013/11/28 初書き
    2013/12/02 掲載
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