ミックス(混合)

□破った約束を再び誓う
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「綱吉。」


雲雀が綱吉を呼ぶ。
床に這いつくばって脱力していた綱吉はいつの間にか立ち上がり、壁に寄り掛かっていた。
呼ばれ、起き上がり雲雀の横に並ぶ。

真っ直ぐ狡噛を見た。




その瞳を見て狡噛が硬直する。




まるで予言者のように




その瞳はすべてを見透かすように透きとおり
その言葉は宣託のように頭に響き渡る。






「常守朱。」


その名前に狡噛が目に見えてビクついた。
すぐさまその失態に気付いて舌打ちする。


「彼女の選択を君は知っている。」

「……ああ。」

「彼女は君を助けるためにシビュラと取引をした。」

「……。」


そして自分はその彼女の覚悟を受け入れなかった。

胸痛んだ。

しかし項垂れることはしない。
後悔はしていない。後悔することは彼女をも貶める行為だ。
そんなことは絶対にしない。
そんな狡噛の様子を見て、綱吉はかすかに笑った。

彼はやはりふさわしい。

それに嬉しさを感じるが、この後告げることが彼を苦しめる。
それがわかるから、少しだけつらそうな顔をした。


「君はその後の彼女たちを知っている?」

「?」

「そう、君は知らない。だから…望むなら……俺が教えよう。」

「……頼む。」


狡噛が頷く。
伝えられる内容は嘘かもしれない。
だが、狡噛の嗅覚はこいつの言葉は信じられるとそう言っている。
綱吉はそっと目を閉じた。
まるで神に祈るように瞑目しながらしゃべる。


「君がシビュラという世界から脱した後…君の親友は君と同じ道に落ちた。」

「!!…ギノ…」


苦しそうに顔がゆがめられる。


「そして、彼女はシビュラの世界でひとり戦い続けている。」

「…常守…!!」

「彼女はシビュラの実験台として、サンプルとして、観察対象として、選ばれた。
彼女はシビュラを厭いながら、嫌悪しながら、それでも必要性を認め、世界に許容されている。
シビュラにとっては完璧になるために必要な存在だった。
彼女は世界からはじき出されるその時まで、戦い続ける。」


そう締めくくった綱吉は瞼を上げる。
目に入った狡噛の顔には、苦悩と、憧れと、喜び。
それに…もっとも強い思いが入り混じる。
それを見て綱吉は微笑み、雲雀は少しだけ口角を上げる。


「狡噛慎也。君に再び問おう。……俺たちときませんか?貴方は貴方の正義を貫くために。」


綱吉が手を差し出す。
狡噛はその手を見る。
この手をとれば、彼女に近づけるだろうか。
いや、そんなことは不可能だ。
だが、彼女を知り…彼女の姿を見ることはできる。
そして、彼女を拒んでまで貫き通した己の正義。
その存在を燻ぶらせるのではなく、今度は前面に。
自分はこの手をとっても彼女の憧れてくれた自分だろうか。
そんなことを考え、馬鹿だな俺は。そう思った。


彼女が、じゃない。俺の正義は俺が決める。


俺が正しいと、これだけは、と決めたこと。
それが正義。己の正義だ。
にやりと笑った。
久しく浮かばなかった獣の笑顔。


それは彼女のもとについていた時、彼が…執行官の時に…一番浮かべた顔。



「やってやる。」


そう言って、綱吉の手をとった。
たとえ刑事じゃなくとも…俺は俺の正義を貫いて、そうしてお前に会いに行く。
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