頂き物

□お家デート
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 自分で言おうとしたくせに、その言葉すら聞きたくないと手で耳を塞ぐ。
「出ましょう!ね、雲雀さん、ここから出ましょうよ!!」
 雲雀の膝から降りると、綱吉は彼の腕をグイグイと引っ張って扉へと向かった。特に反対する理由もない雲雀は、素直に引っ張らる。
 扉に着くまでにも何回か音がして、綱吉はその度にビクッと震えた。しかし雲雀は、納得いかない様子で首を傾げる。
「ねえ、綱吉。これって…」
 雲雀が何かを言い終える前に、綱吉が扉を開く。すると、ラップ音などひとたまりもないくらいの激しい音が、室内になだれ込んできた。
「な、なにこれ?」
 それは唸るような風と、その風が建物にぶつかり揺らす音、そして雨が叩きつけられる音だった。
「やっぱりね」
 これにも動じず、雲雀は頷く。
「なにがやっぱりなんですか?」
「さっきのは、ラップ音じゃなくて家鳴りだよ」
「へ?やな…」
「家鳴り。色々な条件で家が軋むときに出る音だよ。これだけ風に揺らされれば、軋みもする」
 家全体が軋めば、防音は関係ない。書斎にも影響があるのは当たり前だ。
「な…なんだ。そっか…」
 心底安堵する綱吉を見て、雲雀はラップ音と家鳴りの違いを何故聞き分けられたのか、言うのを止めた。家鳴りとはまた少し違うその音を、雲雀は書斎のみならず家のいたる所で聞いたことがあるのだ。しかし怖がりな綱吉にそれを言えば、家に来てくれなくなるかもしれない。
 雲雀もまたお手伝いさんと同じく、賢明にもその手のことを話さないでおくことに決めた。





 書斎を出て階段を上がると、先ほどのお手伝いさんが大慌てで雨戸を閉めていた。
「あ、手伝いましょうか?」
「あら、大丈夫ですよ。これが最後なんで…それより書斎から出たらこんな天気でびっくりしたでしょう」
 綱吉の申し出に笑顔を返すと、お手伝いさんは急激に変わった天気のことを話してくれた。
 それによると、雨は一時間ほど前から強くなり、風も出てきたのだという。しかしここまで強くなったのは十分ほど前のことで、それから慌てて雨戸を閉めて回っていたのだそうだ。
「爆弾低気圧って言うんですか?とにかく急で…そうそう、竜巻注意報なんていうのも出てるみたいなので、今お帰りになるのは危ないし止めた方がいいですよ」
 帰るという言葉に、綱吉はハッとなる。そういえば、今は何時だろうか。書斎にも時計はあったはずたが、見た覚えがない。
「えっと、今何時…」
「五時五十三分だよ」
「なっ…ご…じ…」
 雲雀が携帯で時間を見てくれた。それにしても、思った以上に長く籠もっていたらしい。
「もう帰らないと…」
「今の話聞いてた?危ないよ。今日は家の車も出払ってるし…というか、下手をすると車でも危ないよ」
「でも…」
 沢田家に門限はないが、まだ学生の一人娘がなんの連絡もなしに六時まで帰らなければ心配するだろう。
 綱吉が戸惑っていると、雲雀は携帯でどこかに電話をし始めた。
「…あ、奈々さん?」
「え!?母さん?」
 電話の相手は綱吉の母、奈々だ。
「そう、この天気だから…泊まらせようと…」
「な!?泊まるって、ちょっ…」
 勝手に話を進められていることに綱吉は焦るが、雲雀はお構いなしだった。
「うん…分かった。はい…」
「…へ?」
 いきなり携帯を差し出された綱吉は、戸惑いながらもそれを受け取る。
「もしもし、母さん?」
 すると、電話の向こうから奈々の陽気な声が返ってきた。どうやら、綱吉が雲雀家に泊まるのは決定事項のようで、ご迷惑にならないようにねと念を押される。母の雲雀に対する信頼は随分厚いようだった。それは、雲雀が母の前だけでは常に礼儀正しいからだろう。
 最後にもう一度、雲雀に電話を変わり、綱吉のお泊まりが完全に決定した。お手伝いさんは綱吉が泊まるのなら色々準備しないとと、長い廊下を忙しそうに走って行く。
「さて、これでもっと一緒に居られるね」
 楽しげに笑う雲雀に、綱吉はその一緒を想像して赤くなる。一晩中ともなれば、ただのイチャイチャでは済まない。嫌ではないが、まだその手のことに慣れていない綱吉は恥ずかしさの方が先にくる。しかも今日は数人のお手伝いさんだけで、いつもはツナちゃんツナちゃんと彼女を構いたがる雲雀の家族は誰も居ない。要するに、雲雀にとっての邪魔者が誰も居ないのだ。
 赤くなった綱吉が可愛くて、雲雀は柔らかな頬に優しくキスをした。うるさいくらいの風と雨の音は、二人の甘い空間という結界に阻まれ届かない。それは完全防音の部屋よりも強力なのだった。

end





《あとがき》
suzu様リクエストありがとうございました!
リクエストの家デート、書斎、お泊まりの中で、お泊まりだけが中途半端な感じですみません!あれ以上書くと、R指定しなければならなくなるので…
少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。







《黄鳥》
というわけで、フリーだったので頂きました!!
いやー、すばらしい作品に感謝です。
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