CHAPT.1 ー絶望トロピカル
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「あらあら!?名前ちゃんオッハヨー!昨日はよく眠れたっすか?ちなみに唯吹はなかなか寝付けなかった上にサイッコーに怖い夢見ました!ペロリン!」
レストランに入ると、そこにはもうほとんどの人が集まっていた。朝からテンションの高い唯吹ちゃんが、両手を左右でパタパタさせながら挨拶をする。
「おはよう。遅くなっちゃったかな、ごめんね」
「全くだが、まだ全員揃ったわけではないからな。許してやろう」
「相変わらずいい態度してんな、テメーはよ」
十神くんの上から目線に対して、後ろの方で九頭龍くんがため息をついた。振り返ってみると目があったので、おはよう、と挨拶をする。しかし九頭龍くんが挨拶を返してくれることはなく、ふいとそっぽを向かれてしまった。私、この島に来てから何人にそっぽ向かれてるんだろ…。
「わーい!名字の奴、無視されてやんのー!……八方美人がどこでも通用すると思うなよ」
かと思えば、耳元で囁かれる日寄子ちゃんの毒舌に、朝から私のメンタルはズタボロだ。
レストランに全員が集合したのは、それから少したった頃だった。既に信じられないくらいの食べ物をお腹に詰め込んでいる十神くんの前に、左右田くんの服をがっちり掴んだ真昼ちゃんが立つ。
「はい、お待たせ!連れて来たよっ!ほら、しゃきっと歩きなさい!男のクセに恥ずかしくないのっ!?」
「や、やめろよォ…引っ張んなよォ…袖が伸びんだろォ…」
「きゃははっ!外見は派手なクセして小心者だねー!大丈夫かなー?それって最初の犠牲者になるパターンだよ?」
「や、やっぱ帰らせろぉおおおおおおッ!!」
そんな会話を聞きながら、日寄子ちゃんへの恐れが自分の中でどんどん大きくなっていくのを感じた。ほ、本当にすごいぞあの娘は…。ごくっ、と唾を飲み込む。と、同時に突然体が後ろへ引っ張られた。私の体は重力に逆らえずに、すごい速さで床に吸い込まれていく。視界がぐるんと変わった。
「わっ!」
「きゃあああああ!!」
ドンガラガッシャーン!
耳をつんざくような轟音と共に、私の体は床に投げ出された。思わず目を瞑ってしまったあと、お尻にすごい衝撃を感じた。それからジンジンと痛みが増してくる。
「な、なんだッ!?」
日向くんの声に慌てて目を開けると、そこには……
「はわっ…はわわわぁー!こっ、こっ、転んでしまいましたー!」
尻餅をついた私の目の前で、蜜柑ちゃんが転んだ、の一言では片付けられないような体勢で、転んでー…いや、縛られていた。
「そ、それって転んでるのか?」
「どうやって転んだらそんな体勢になるんだ!」
「いや嬉しいけどさぁ!堪らなく嬉しいけどさぁ!」
日向くんを先頭に、十神くんと花村くんが疑問を投げかける。花村くんは何とも嬉しそうだ。素直に口に出せるのが凄いと思う。
「ひゃーん!恥ずかしいですぅ!た、助けてくださぁあい!」
「むっはー!恥ずかしそうなお顔がカアイイー!萌え過ぎてフガフガしちゃいますなぁ!」
「と、とにかく助けてあげようよ!」
花村くんのような事を言って楽しんでいる唯吹ちゃんに、真昼ちゃんが救助を促す。唯吹ちゃんは、ほいほーい!と手をあげると、そそくさと蜜柑ちゃんの足に絡まっているコンセントを外しにかかった。
「名字さん、大丈夫?」
その光景を、尻餅をついたままぼーっと見ていると、横から顔を除きこんでくる誰か。驚いて見ると、それは心配そうに眉を下げた狛枝くんだった。
「こ、狛枝くん。あはは、大丈夫だよ、これくらい」
「罪木さんが転ぶときに巻き込まれちゃったみたいだね。立てる?」
優しく差し出してくれた狛枝くんの手を、有り難く借りようと右手を伸ばす。少し握った狛枝くんの手は思ったより冷たくて、こんな暑いのに何でだろう、と疑問に思った。
「ありがとう、狛枝くん」
「全然気にしないでよ。ボクに出来ることなんてこれくらいだから」
にっこりと笑う狛枝くんに、いい人だなぁと私も自然と笑顔になった。