プロローグ

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「ど、どうなってるの…これ…?」

しんとした公園内に、狛枝くんの震える声が響く。私はそれに反応する事も出来ずに、ただただ立ち尽くすしかなかった。

日向くん達より一足遅れて到着したジャバウォック公園で私達を待ち受けていた事は、私の想像を遥かに超えたものだった。目の前で蜂の巣になった“モノミ”のリボンがひらひらと足元に落ちる。
一体何が起こったと言うのだろうか。希望ヶ峰学園の学園長だと名乗るモノクマというぬいぐるみの登場。そのモノクマから告げられた“修学旅行”の内容。学級裁判、おしおき、モノケモノ…ーコロシアイ?

全てにおいて現実感なんて少しもない。そう言った私たちの前で呆気なく殺された、モノミの残骸。
私と同じように立ち尽くす皆の顔をそっと見回す。ここにいる誰もが同じように、疲れ切った顔を青く染めていた。

「え、えっと…えっと…。ぼ、ぼくは…あんなの信じないよ…。以上ね…これにて終了ね」

「に、人間や動物相手ならまだしも…あんな弩デケェ怪物相手に、一体どうしろっちゅーんじゃあ!」

「……」

疑問を投げようと開けた私の口は、何の言葉を発することもなくゆっくり閉じた。分からなかったのだ。この場で自分が何を聞きたいのか。自分が何を知りたいのか。自分がどんな状況なのか。今私の口から出る言葉があるとしたらそれは、まるで中身のないからっぽの“なんで?”
ただその一言だけだと思う。

モノクマを操る“誰か”の話し合いを黙って聞く。その間も頭の中ではなんで?なんで?と同じ言葉だけがずっと思考回路をぐるぐる旋回していた。

「いくら混乱しようとも取り乱そうとも構わない。だが、これだけは肝に命じておけ…。どこの誰が俺達を陥れようとしているのかは、知らないが…」

ゆっくりと流れ込んでくる十神くんの声に顔をあげる。誰もがみんな、十神くんに視線を集めている。きっとこれから十神くんがいう言葉は、大切な意味を持っているんだろう。

「今の俺達が1番警戒すべきなのは、あの非常識な機械でも…それを操る誰かでもない…。それよりも、まず警戒すべきなのは……ここにいる俺達自身の方だ。」
「見ず知らずの連中と共に南国の島に連れて来られ、そこで殺し合いを命じられ…そうやって植え付けられた絶望的な恐怖心から逃れたいという気持ちこそが……俺達の最大の敵なんだ」

十神くんの言葉に、私達は自然とお互いの顔を見回していた。その顔付きを見てすぐに気付く。みんな、みんなが認めてしまっているんだ。この状況の中で、必ずしも“その可能性”がないとは言いきれない事を。誰かががこの絶望的な状況から逃れる為に、殺人を犯さないという根拠がないということに。そしてその疑心暗鬼は、自分にも向けられるのだ。

(絶望……)

心の中だけで呟いたそのフレーズに、私の体は内側から冷めていった。

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