プロローグ

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「いやっほおーーーーーうっ!」

「わーい、わーい!海ですよぉ!」

「うふっ、水がぬるくて心地いいですわね」

私達が水着に着替え終えてから砂浜に戻ってくるのに、そんなに時間はかからなかった。海が見えたと思うと、バタバタと走って文字通り海に突っ込んでいく左右田くん達の後ろ姿を見送る私。何故かって、最初から最後まで唯吹ちゃんに急かされ続けてへとへとの私には、休憩の時間が必要なのだ。

「うはっ、しょっぺーっす!この海は手加減抜きにしょっぺーっす!」

そんな私のことなんて既に眼中になさそうに、海水に顔をつけてケラケラ笑う吹唯ちゃん。私も少し休んでから遊ぼうと、肩にかけたタオルをかけなおして砂浜に腰を下ろす。

「ああっ!大変だよ、ぼくとした事が、海水浴イベントで最も重要ともいわれる日焼け止めを持ってくるのを忘れてた!」

そんな中、ぽこんと出た可愛らしいお腹を揺らしながら、ショックを受けている花村くん。どうやら日焼け止めを忘れてしまったらしい。日焼け止めなら、途中スーパーに寄って持ってきたものが、私のスイミングバッグの中にあるはずだ。しかし、何か怪しげな発言をしている花村くんに貸してもいい物なのだろうか…。

「花村くん。日焼け止めなら、私持ってるよ」

「ええっ!?それは本当かい?」

「うん!あ、でも何に使うのか先に…」

「有難いよ名字さん!それをぼくに貸してくれないかなっ?…あ、そうだ。お礼にぼくが名字さんに日焼け止めを塗ってあげるよ!」

「え゛!?そ、それはちょっと……」

「遠慮しないで!ほらほら!さあさあ!」

「わああ!だ、誰か助け…」

「こらー!何してんのよ、花村!」

「ま、真昼ちゃん……!」

白い砂を蹴りあげて、怒鳴りながら駆け寄ってくる真昼ちゃんが天使に見えた瞬間だった。

「大丈夫?名前ちゃん」

「うん…ありがとう、真昼ちゃん」

「大丈夫ならいいけど…花村!アンタ女の子に何てことしてんの?ほんと、男って仕方ないわね!」

腰に手を当ててお母さんのように花村くんを叱る真昼ちゃん。対して花村くんは、肩をすぼませて俯いている…ように見えて目線はばっちりと真昼ちゃんの濡れた胸元を捉えていた。何て男の子なんだ…!
私のための説教を邪魔するのも何なので、肩にかけていたタオルをそっと真昼ちゃんの肩に乗せる。「あ、名前ちゃん、サンキューね」とにっこり笑う真昼ちゃんの向こう側で、花村くんは酷く残念そうだが、こればかりは仕方ない。

「名前ちゃんも、嫌な時ははっきり言わなきゃダメだよ!」

「……」

「…………名前ちゃん?」

「……うん。ごめんね、ありがとう」

それは、ここにくる前から散々言われていた言葉だった。心臓がどくんと上下して、思わず顔が強ばる。何も言わない私の顔を、不思議そうに覗きこんでくる真昼ちゃんに、咄嗟に笑顔と言い慣れた言葉を返すと、真昼ちゃんは満足したのかくるりと横を向いた。

「田中もだよ!そんなに気になるならちゃんと止めなさいよね!男でしょ!」

と同時に、 立派な砂のお城の後ろから顔を出してこちらを見る田中くんをビシッと指さした。田中くんはびっくりしたように飛び跳ねる。

「お、俺様は人間共の醜い争いに興味などない!何より今は、この闇の世界を統べる為に重要な城を…」

まったく関係のない田中くんを注意しだした真昼ちゃんを、私は慌てて止めに入る。田中くんが私のことを助けてくれるなんて、そんなはずないのだ。今田中くんが言った通り、彼は私のことが嫌いなはずだから……、何だこれは。自分で言って自分で落ち込んでしまう。

「ほらぁ!田中がそんなこと言うから名前ちゃんが落ち込んじゃったじゃん!」

「あああ…真昼ちゃん、違うよ。誤解だよ」

「フン、俺様に楯突くことがどういう事かやっと分かったようだな」

「ねえねえ、ぼくはもう戻ってもいいのかな?日焼け止めも調達できたし」


そんな騒ぎを尻目に、日焼け止めを持ってそそくさと海に向かう花村くんを、真昼ちゃんが再び叱り飛ばした、その時だった。
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