弾丸論破短編

□変態な狛枝がわかりにくい
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最近狛枝の様子がおかしい。

そりゃもう毎日槍が振り続けても不思議ではないくらいのレベルで、異常なまでにおかしい。それほどにおかしい。これ程までにおかしいと、狛枝の心配を通り越して最早地球の心配をしてしまうくらいだ。どこかで地球の生態系が狂っているのではないか、と。

そんな私の心配をよそに、その問題の狛枝は今、なぜか私のベッドの下をのぞき込んでいた。無論、この状況に説明はつけられない。いきなり来て理由も話さないまま、「ゴミ以下のボクなんかが、君のような才能溢れた希望の象徴の部屋にあがらせてもらうなんておこがましい事この上ないと思うんだけど、後で好きなだけ煮るなり焼くなりしていいからさ」とにこやかに笑いながらいきなり私の部屋を物色し始めたのだ。この異様な事態に、私はドアの前でただただ立ち尽くしたまま五分ほどが経過したところで今に至る。

「ね、ねえ狛枝……?どうしたの、最近」

「ここにもないか…。だとしたら……あとはタンスとかかな」

「あ!ちょちょちょちょっと!!そのタンスはだめ!」

私の質問を全く聞く気のない狛枝は、あろう事か私の下着が入っているタンスを堂々と開け放とうとし始めた。そんな狛枝は少し残念そうな顔をした後、冗談だよ、とひらっと片手をあげた。しかし、どう考えても冗談には見えなかったあたり、狛枝の考えている事がますますわからなくなる。いったい彼は何がしたいと言うんだ。

「……狛枝さ…、この前からなんか変よね」

未だに謎の笑みを浮かべている目の前の男に、自覚はしているのかと目線で訴えかける。すると意外なことに彼は、そうだね、と頷いた。おい待て、今までのあれやこれはすべて確信犯だったのか。

「ど、どういうこと?」

「うん。だからさ、名字さんはボクの最近の行動が変だって言いたいんだよね?」

にこにこ、へらへら。
訳がわからず再び立ち尽くす私に、目の前のこの男は少しも悪びれることなくペラペラと饒舌に続けた。

「最近ボクがよく名字さんの真後ろで転びそうになったり、食事の時は名字さんの隣を常にキープしてたり、海での採取には水着着用が義務だなんてとんでもない嘘ついたり…。あとはアレとかかな。花村クンに名字さんの下着の色を聞いてた「そ、そこまで!」

恥ずかしげもなく淡々と自らの奇行を語る狛枝に、それ以上言わせるかとストップをかける。まだあるけど、もういいの?とでも言いたげに首を傾げるこの男に、自然とため息が出た。

「わかってるならいいわよ…。私が聞きたいのは、なんでそんな意味の分からない行動をするのかってとこ」

呆れ半分に狛枝を見る。するとその呆れられた本人は、先程よりもさらに不思議そうな顔で私を見ていた。私よりも少し高い位置にある目が、きょとんと私を見下ろしている。

「な、何よ…。驚くところ?」

「いや…、名字さんって思いのほか鈍感なんだね…。そりゃ、ボクなんか恋愛どころか興味の対象にも入ってないってことは重々承知してたけど…」

「は?恋愛?」

「ここまでやって気付いてくれないとなると、ボクはもう名字さんにとって空気…いや、空気以下であり二酸化炭素よりも必要とされてない存在なのかなって思っちゃうよね…」

ふう、と軽いため息をついて斜め下を悲しげに見つめる狛枝に、ますます頭がこんがらがってしまう。恋愛がどうとか二酸化炭素が何だとか言っていたが、私の質問の答えとなるものはそこには含まれている気がしない。

「ちょっとちょっと狛枝くん、もう少しわかりやすく説明してよ」

どこまでも不可思議なこの男に、若干苛立ちを含んだ声で返事を求める。すると彼は、やれやれと言ったように眉を下げた。その表情に、自分の顔がむっとするのがわかる。

「何よ、その「名字さんのパンツがどうしても欲しかったんだ」

ガツンと言ってやるつもりで腰に当てた手が宙に浮く。言いかけた言葉は喉の奥に引っ込んだ。いったい何を言ってるんだ、彼は。パンツ?パンツって、私のパンツ?

「な、何言って……」

「勿論、君みたいな希望に満ち溢れたな女性に、ボクなんかが釣り合うなんて思ってないけどさ。でもこの前、日向クンがアドバイスをくれたんだ。まず希望のカケラを全部集めたらどうだって」

「……」

「でも一向に集まりそうにないし、こうなったらパンツを貰うところから始めようと思ったんだ。ほら、そっちの方が近道だと思って」

思考がついていかない、とはこの事か。 差し出された片手と、狛枝の笑顔を交互に見る。この状況についていけるわけがなく、しんと静まり返ったコテージ内で、次に狛枝が発した言葉がこだましたように感じた。






“パンツ、くれないかな?早く告白したいんだ”

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