長編

□積み木
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今日は、なかなか運がいい
なんて、ほざいていたのは、誰だ。


マジ、ふざけてんじゃねぇぞ



現在、
俺の右腕に掛けていた上着はお茶でビシャビシャ
また、右手に握っていた無料券は水分を含み破れてしまっていた。





悲劇の少し前だった。


本を返すだけで無料券を貰えるなら安いもんだ、と図書館に寄った。


受付の人に、参考書を渡す。
たったそれだけで、役目を終えた。


今は午前の練習の後で、
腹も減ってるし、時間も丁度いいと考えて本を返したその足で、マジバへ行こうと思っていたのだ。


涼しい図書館を出て、ロビーへ来た。

この図書館は、
勉強ができるスペースと、小さなホールが一体化しており、このロビーをすべての出入り口としていた。


「ハラ減った……」


混む前に行こう。

そう思った直後だった。



「キャッ!」


右側から、
誰かがぶつかってきた。


その拍子に、
俺の右側に、そいつが持っていたお茶がかかり、
そいつは、尻もちを付いた。


「オイッ!」

マジバの無料券、どうしてくれんだよ!?


「す、すみません!」


顔を上げたそいつは、
黒い大きな瞳と、後ろで揺れる黒いポニーテールが印象的で、


「あ、の……大丈夫ですか?」
「あ、いや、」


夏なのに色白で、
柔らかい雰囲気をもったヤツで、
淡いピンクのワンピースがよくにあっていた。


ソイツは、狼狽えながらもハンカチで俺の腕を拭う。


「本当にすみませんでした。
もし良ければ、マジバ奢らせてもらえませんか?」
「は?」
「破れてしまったソレ、無料券ですよね?」


彼女の視線が、ボロボロになった無料券に向けられる。



「別に、そこまでしてくれなくていいっつーか、俺もボケっとしてたし」
「いえ、それじゃあ私の気が収まりません!」


その後数回同じ会話を繰り返したが、彼女はその見た目に反し、結構頑固だったので、
仕方なくこちらが折れてマジバへいくコトにした。




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