□息を潜めた深海魚
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東京のとある高級ホテルの地下4階、エレベーターを下りた左側。


豪華な装飾に囲まれたカジノは、限られた大富豪のみの空間で、毎日毎日コインやカードのこすれる音で賑わくっていた。



ここが問題の発端。



「こんばんは、羽張さん?」

「……また貴方なの?」

「そう分かりやすく嫌そうな顔しないで下さいよ。傷つきます。」



そこまで傷ついてもないような、平坦な声で返事をするこの忌々しい男。



最近になって現れた、新しい青の王。

…父の後を継いだ、青の王だ。



象徴とも言える制服で無く私服でおもむき、いつもより少しラフな格好をしていても、取っ付きやすさなんて微塵も感じなかった。



「私は貴方には用は無いのだけれど?貴方だって、賭け事する為に来てるわけでは無いでしょう?」

「貴方には無くても私は用があるんです。…賭け事に対しては愚問ですね。」




眼鏡の奥の深海のような目で此方を見据える。


どうやら引く気など全く無いらしい。




話し合い…としても、平行線を辿るのは目に見えている。





「…ゲームは?」

「ポーカーで。」




短いやり取りからもうゲームは始まっている。お互いが腹の探り合いをし、とてつも無く心地悪い。





早く終わらせなきゃ。





店長も相手を誰か知っているから止めてくれ無い。自分でどうにかするしか無いのだ。






「チェンジは?」

「しません。」






職としてやっている私とゲームをしているのに飄々としている態度は変わらず、少しばかり口元が上がっている。


全く掴みどころの無い男だ。




「ストレートフラッシュ。」

「…出だしから飛ばしますね。」



私の手元にはしっかりと札が揃いっていて、綺麗に陳列したカードがあの深海の眼に面白くなさそうに睨まれる。


穴が飽きそうなほど睨まれるのが自分出なくて良かった、なんて胸を撫で下ろした。




「言っとくけど、私は心変わりし無いわよ。あんな仕事と関わるの、もう懲り懲りよ。」

「…そうですか。でもそれだけじゃ無いんでけど……まぁいいです。勝てばいいだけなんですから。…チェンジ。」




意味深な事を言いつつ、目線はカードに落ちる。


伏せめがちになった眼でさえも、和らぐ事の無い威圧感に胸糞悪い、と吐いて棄ててしまいたくなった。

先代の時の…父のあんな思い出。幼かった自分にはとても酷で。もう、大切な人を失いたくない。




「…新しいセプター4はしっかり成り立っているの…?」

「おや、懲り懲りでも興味はありますか?…そうですね。いい具合です。……貴方さえ揃えばね。」





カードに向けていた眼がチラリと此方を見上げ、口が三日月型に釣り上がる。



獣の様に欲に忠実なこの男が、何故自分にここまで固着するのか。



…大切な時に何もできなかった自分に。





「…新しい青の王は物好きね。…私もチェンジ。」

「そうかもしれませんね。…あ。」





私の手札を見て罰の悪そうな顔をする。


私の手元に見事に並ぶ、ダイヤのエースからキング。



勝ったー…




何回目になるかは分からないが、
この掴みどころの無い男とゲームするのは、些か緊張する。



でも、今回もきっとまた来ます、なんて言って出て行って、一週間後には懲りずにここを訪れるのだろう。



「いや…負けましたね。やはり貴方はポーカーに強い。」

「そうね。貴方が此処に来るせいで上手くなったのかもね。」




少し嫌味ったらしく言ってみると残念です、と眉を下げた顏と目が合う。


熱に浮かされる様な、そんな感覚に陥るからなるべく顔を見無い様にしていたのに。

この男は本当に不思議で掴みどころの無い。




早く、また来ますの終止符をうってほしくて、

他の仕事に取り掛かろうと後ろを向き、バーカウンタスペースでグラスを手に取る。






「仕方ありませんね…ではコレを。」

「…は?」



突然、帰る事もなく続けざまに言った言葉に振り返る。



コトン、と大理石のカウンターに置かれたのはガラスで出来たチェス板で。


深い碧とと透明なガラスのコントラストで、少しばかり年忌の入ったもので、記憶が正しければ、馴染み深い物だー…



ここのカジノにはそんなものおいて無い。



そう、どう考えても見覚えのある…




これは今は亡き父の愛用していたチェス板だった。





「…嫌よ、そんな専門外な物。ここのカジノには無いもの。第一、貴方が一番得意なのチェスじゃなかった?」

「えぇ、だからです。…今日何としてでも貴方…名前さんを手に入れる為に。」



またあの眼が此方を見据える。



あの眼は嫌い。ずっと見ていたら吸い込まれそうな、深海の様な深い碧なんて。チェス板と同じ、碧なんて。



父の様な…碧なんて。



イカサマの効か無い真っ向勝負も嫌い。逃れる事のでき無い、窮屈なゲームは。



ー嫌い。






「無理よ、そんなチェスなんてー…」

「おや、先代はよくチェスをしていて、貴方とも頻繁にうっていたと聞いてますが…?」



本当何処からその情報は手に入れたんだ。


人の弱味を握るのが、さぞかし得意なんであろう。



選択肢は選択出来無い。



ーYES orはい…




「…こんなのズルいわ。」

「私だって、毎回同じ事の繰り返しがしたくて来てる訳じゃないですよ。」

「…傲慢。」




不本意にも、また他人の敷いたレールの上を歩くなんて。



わざわざ思い出の品を持参して来るなんて想定外だった。



キャパシティオーバー



そんな言葉が一番合う気がした。



「一つ聞いていい?」

「何でしょう。」

「…何で私に固着するのー…?」




ずっと聞きたかったこの疑問。もう、この先の結果なんて、自分が一番よく知っていたから。





「そうですね…勝ってから言うつもりでしたが…ただ単に欲しかったんですよ。」

「…オモチャの様に…?」





帰ってきた返答は呆れた物で、子供じみた不条理な要求。


自然と自分の顔が険しくなるのが分かった。



「いいえ、…………恋人、としてですかね。」

「………へ?」




衝撃だった。


あまりに似合わない言葉に唖然とするしか無かった。


人、物を愛することなんて想像の
出来無い人物だと思っていたから。



手から滑り落ちたナイトの駒は置こうとしていた場所とは全く違う所に落ちていて。




「あれだけアタックしていたのに気づいて無かったとは………それに、私も機械じゃ無いんですよ…?」




見透かした様に言ってのけるこの男に、後は囚われるだけ。




「チェックメイト。」




ゲームの終わりと共に、私自身の生活にも終わりが告げられる。



後は、何処までも堕ちて、堕ちて、深い深い深海で息を潜めて囚われるだけー…



思ったよりも悪くないー…



そんなこと思ったのは言わないでおく。


ただ、チェスを片して仕事着のまま手を引かれる。




さよなら、私の人生。



自由な生活に幕を降ろす。



もう、私は酸素ボンベが無いと生きていけないのだから。






息を潜めた深海魚




(…ところで、貴方n(礼司です。)(…宗像s(礼司です。)(……私、隣の部屋は嫌です。)(主語を使わない戦法に出ましたか…。)



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…とまぁ、エセ宗像さんの出来上がりです。わーい(白目)


羽張は先代の青の王の名前です。あと、名前変化が極端に少なくてすみません…うわっふる(^ω^)


実はポーカーなんて数える位しかした事ありません。

適当でかなり間違っていると思われますので、もう目をつむってやって下さい←


それに比べてチェスはかなりの手練れだったりします←

家に父が何処ぞの国で手に入れた高級なでっかいチェス板があって、ハマった時期はノイローゼの様に夏休み中、弟とやってました(笑)


の割にはゲーム中の描写が極端に少ないのですが、ここも目をつむって頂けると嬉しいです(^ω^)



リクエストありがとうございました。取り引き…って感じでは無いのですが…


宗像さん、むずかしいです。はい。


それでは、お気に召しましたら幸いです。


アデューノシ

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