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「みっさきぃぃいいいっっ!」

普段殆ど誰も呼ばない下の名前を呼ぶ、甲高い声が俺の方へ走ってくる。


…否。突っ込んでくる。




「うるっっせぇ!!こんのチビ!!」

「ぬぉっ!?」



突進してくる弾丸の丸い部分。つまりは頭を鷲掴みにして止める。

俺の掌が赤く蜃気楼を発してるのはどう見ても気のせいじゃ無いだろう。


「いたいいたいいたいいたいっ…!」

「んじゃ突っ込んでくるんじゃねーよっ!?」


自分より格段に小さい背で、若干上目遣いになりながら涙目でキッと睨んでくる名前。うん。全っっぜん怖くない。


未だ離さずにいる小さい手の平サイズの頭から、非難の声が聞こえてから少しずつ力を緩める。




…が。火に油を注ぐのが大の得意な彼女がここで収まるわけも無く。




「なにさっ!自分だってチワワのクセにっ!」

「んだとゴルァっ…!!」



その小さい奴より小さい奴が生意気言いやがってっ。


咄嗟にもう一度頭を引っ掴んでやろうと手を延ばしたが、素早く横から手が伸びて来た。




「やめぃ、ガキンチョ。やるなら店の外出てやりぃ。」




物腰柔らかな京都弁のここHOMRAのマスター、草薙さんだ。

言葉、声とは裏腹に、サングラス越しでも分かる鋭い眼光。怖い。とても。



店の安全第一とする彼の逆鱗に触れてまで、ここで喧嘩する理由なんか見当たらない。おとなしく出した手を引っ込める。



「…んで。何だよ。急に騒ぎながら突っ込んでくるなんて。」



改めて彼女に聞くと、そうそう忘れてた、と鞄を漁り一枚の紙を手渡して来た。



「はい、コレ。美咲が行きつけのラーメン店でこれやってるの。丁度私もお腹減ってるし、お昼まだなら一緒に行こうかなって。」



すると横から草薙さんもほうほうと、内容がデカデカと書き綴られているチラシを覗きこんだ。



「えぇやん。なかよー二人で行ってきぃ。二人で行けばお得やん。」



そう言ってガキンチョのはけ口見つかったわ、とカウンターに戻ってタバコに火を付ける草薙さん。



「ね?悪い話じゃ無いでしょ?ラーメン二人で一個の値段だよ?」



確かに。確かにそれだけならとてつも無くうまい話だ。ただ…



「なな、何だよっっ!?このカップル限定って!?いいい、いつの前におもむきあった店がこんな浮ついたなフェアしてるんだよっ…!!」



デカデカと書いてある見出しの下に、カップル、夫婦のみ対象!愛の力で半額に…!?年齢問わずおこし下さい!!の文字。



「ね?行こうよ、いいじゃん、多分そんな不釣り合いじゃ無いでしょ?お得だよ?それよりお腹減ったよ私〜。」



それより扱い。そう、名前は昔から無神経だ。19にもなって、そう言った事に鈍感で全くモノともしない。


これだから名前には昔から苦労させられて来たんだ。



「じゃ、いって来まーす!!」

「おぅ、気ぃつけやー。」



半ば上の空の俺の手を引いて、ひらひらと手を降り店を出る名前。



…まぁ、反抗する事も無く、こうしてラーメンを二人して啜ってる訳だけど。

(兄ちゃん、フェアだからって彼女連れて来たんかぁ?)(ブッッ)(なんでぃ照れ臭いなー。しょっちゅう自分は来てるくせによぉー。)(あはは、また来ますねおじさん。)(おっちゃん…食べてる時はやめてくれ…)

鈍感少女は今日も絶好鈍感娘っ!!



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どうか長年のこの想いに…

“気づいて下さい。”
 

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