記念用
□幼馴染の壁
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淡い色をした、くしゅっとして柔らかい布の包装に、
端がくるっと丸まったリボン。
我ながらずいぶんうまくいったと思う、
いわゆるバレンタインチョコ。
それを両手に、私は彼の家の前に立っていた。
呼び鈴を鳴らす。
いつもより速い速度で波打つ心臓の音が
やけに大きく聞こえた。
日吉「はい」
少しのノイズとともに、よく知った男の声。
菖蒲「…私」
緊張して少し声が裏返ってしまった。
でも声の主は言う。
日吉「菖蒲か」
そう、名前を言わなくても判別できるほど、
長く一緒にいた、幼馴染。
きゅっと唇をかみしめた。
日吉「どうした?」
菖蒲「若に用なんだけど」
日吉「あぁ、入れよ」
ぷつっと音声が途切れた。
菖蒲「…よし」
私は慣れた仕草で、大きな門を開けた。
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