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□そんなまさか
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先日、我が愚弟のせいで多大な迷惑をかけてしまった人がいる。

その方は愚弟の通う中学校の養護教諭で、大変に懐の深いお方だった。

愚弟のせいで大怪我を負ったというのに、"好きでやったことですから"と言ってお詫びを受け取ることさえなさらない。

しかし、それでは私の気が済まないのだ。

弟に聞いてみれば、弟は友人たちとよく保健室を利用させてもらっているらしい。

そのお礼も兼ねて、ということなら彼もきっとお詫びの品を受け取ってくれるだろう。

そう考えて、私は今、かつての母校、常伏中学校に来ている。手にはお詫びの品…私の一家で経営している老舗料亭"紫藤"特製重箱弁当。



先生は独身らしいし、日を跨いでも大丈夫なように出来るだけ日持ちするものを選んできたが…

喜んでいただければ良いが…。


ぼんやりと考え込みながら歩いているうちに、いつの間にか保健室に着いていた。

ここに通っていたのはもう4年も前だと言うのに、未だ体はここを覚えているらしい。

なんだか可笑しかった。


「…失礼します。藤麓介の兄―山蔵です。今日は先日のお詫びとお礼を申し上げに参りました。……ハデス先生…?」

戸を開け要件を言うが、あの気の良い養護教諭が出てこない。

どこかへ出ているのだろうか?
いや、それなら戸にプレートが掛けてあると弟が言っていた。

―先日の大怪我を思い出してゾッとする。

まさか奥で倒れて―!?

「ハデス先生!!」
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