宝物&捧げもの
□いえないこころ
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「土方十四郎」
書かれた出席簿をそっと指でなぜる。
なんだかそれだけで愛しさがこみ上げて来て、ふっと笑みをこぼした。
窓から見えるのは夕日。
綺麗なオレンジ色に教室が染まる。
ふぅとため息をついて、教室の窓際の席に目をやる。
窓際の、一番後ろ。
あの子の、席。
トン。
生徒であるあの子と、教師である俺とを隔てる教壇を下りると、それだけであの子に近づいた気がする。
本当は、こんなことをしたってどうにもならない。
もっと大きな隔たりがあるのに。
一番後ろのあの子の席にたどり着くと、そっと机に手を置いた。
この机でいつもあの子は勉強してるんだ。
友達と話して、たまには笑って、居眠りしたり…俺を見たり。
机になりたいなんてさすがに思わないが、少しだけこの机が羨ましい。
だって、俺はどうあがいたってあの子の担任の先生以上になれないから、せめてこうして机をなぜることくらい許してほしい。
愛しいあの子。
“好きだ”なんて決して言わないから、君を思うことだけは許して。