宝物&捧げもの
□いえないこころ
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ガラァ。
突然開いた扉に、俺はびくっとして手を引っ込めた。
あまりに集中していたため、というか感傷にふけっていたため、歩いてくる音にさえ気付かなかった。
バカだ、俺。
「あれ、先生。どうしたんですか?そこ、俺の席ですよね」
おいおいおい。
「気、気のせいじゃね?」
なんでこんなにタイミングがいいかな。土方君。
俺は、嘘くさく見えることは十分承知で、白衣のポケットから煙草をあさって窓の外に視線を移し
た。
土方は不思議そうに俺を見てから、何を思ったか、ばんっと音を立てて鞄を机の上に置いた。
不覚にも俺はびくっとしてしまって、土方の方を見ると、土方は俺なんか全く気にせずに机の中をあさっている。
「忘れ物?」
「え、まぁ」
歯切れが悪く、土方は机の中をあさり続ける。
「あった」
しかし、土方は机の中から手を出さず、なぜかうつむいた。
ほんのりと顔が赤く見えるのは、夕陽のせいだろうか。
「ぎんっ…先生は、まだ帰らないんですか」
今、銀八って言おうとしなかった!?
とっさに言い直す様子がかわいくて、にやける顔を抑えるために煙草をくわえた。
「ん〜、ま、一服してからな」
すると、土方は困ったようにうつむいてしまった。
机から手を出そうか迷っている様子に、少しだけかわいそうにと思うが、それよりも土方の可愛さと、何をそんなに必死に隠しているのかという好奇心の方が勝る。
「帰れよ…」
土方の口からため息とともこぼれた言葉は、柄にもなく俺の胸に突き刺さって、じくじくと痛みを訴えた。
いつもなら、この言葉に茶化して言い返すことができるのに。
なんだか胸が詰まって言葉が思うように出てこない。
拒絶のような言葉に痛めた胸をごまかそうと、俺は煙草に火をつける。
土方から目を逸らして、白衣のポケットに手を突っ込んで、夕陽を見つめる。
土方も普通なら、教師のくせに教室で煙草を吸うなと文句を言うだろうが、今はそれどころじゃない。
なんども俺の顔と机を交互に見ている。