ZAGARDIA TALE

□序章
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「ねえ由莉さん」

国枝の声がぼんやりと霞んだ思考の中、えらく大きく響いた。
なんだかえらくねっとりとした声だった。

大広間から自室につながる通路は、今静まり返っている。

普段はあちらこちらで忙しく働いている使用人達も
今はパーティーにかり出されているからだ。

「私はね…由莉さんのことをずっと前から知っていたのですよ。」

どういうこと?
国枝と会ったのは今日が初めてのはずなのに…

「やはり、由莉さんはお忘れですか。」

ほんとうにわからない。
この私が、会った人間の顔を忘れるはずないのに…


「…っ!!」

由莉の思考は
突然感じた強い衝撃に遮られる。

「お前は!」

自分の上になにか重いものがのってきたと同時に
自分の首に誰かの手が当たるのを感じた。

「俺は、5年前、バイト先のパーティー会場であんたに会ったんだ!
一言二言交わしただけの給仕のことなんか覚えてないか?
何がはじめましてだ!
5年だぞ?5年!
俺は5年間あんたに釣り合う男になるために必死で上り詰めたのに!」

5年前?
…思い出せない。そんなのは知らない…

「なにがおかしい!?
へらへら笑いやがって!バカにしてるのか!?そうなんだろ!」

バカにしてなんかいない。
思い出せないだけなのに…

「もういい…
俺のことを忘れるようなクソ野郎は死ね!殺してやる!
死ね!死ね!」

首に掛かった手が締め付ける。
気道が圧迫される。
息ができない。

ああ…私は…死ぬのか…
それも…いいかもしれないな
だって私は…


由莉の記憶はそこでとだえた。
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