ZAGARDIA TALE

□序章
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大きな吹き抜けの広間。
あふれんばかりの豪華な料理。
きらびやかに着飾った老若男女。

日本どころか世界中に大きな影響力を持つ高田グループ代表の娘の誕生日パーティーとあって、
今日のこの場所はどこよりも美しく
また集まった人々は誰もが知っているほどの人物ばかりだ。

「由莉さんおめでとうございます。」
「ありがとうございます。楽しんで行かれてくださいね。」

何十回と繰り返されるやり取りに疲れてきても
由莉は決して完璧な笑顔を崩さない。
由莉の振る舞いや態度はそのまま高田家自体の評価に直結するからだ。


「由莉さん、18歳になってご立派になられたな。」

パーティーも中盤にさしかかった頃
ようやく聞こえてきた目的の声に、由莉はさらに笑みを深めると、振り向いて頭を下げた。

「水島先生!ご無沙汰しております。
本日は私などのためにわざわざ…」

「由莉さん、堅いことは止そう。顔を上げなさい。本日の主役なのですからね。」

「では、おことばに甘えまして。」

顔を上げ、にっこり微笑んだ由莉に
何気なく、
ほんとうに何気なく水島は切り出した。

「ところで由莉さん、
ご両親はどちらに?悠真さんもおられないようだか?」

その言葉を聞いた由莉の瞳がほんのわずかに揺れたと思ったのは気のせいではないだろう。
しかし、ほんのわずかなそれに気づけた者は由莉自信を含めて誰もいなかった。

「ええ。父達は今、悠真を連れてフランスに。
本日戻る予定だったのですが、急ぎの仕事だとかで間に合わないようでして。」

「おやおや…
本日は由莉さんのお誕生日なのに、残念なことですな。」

「仕方ありません。
私ももう子供ではありませんし、それにこうして皆さんがお祝いして下さいます。
十分すぎるほどですわ。」

「そうかね?それならばこちらも祝いのかいがあるというものだよ。
ああそうだ
由莉さん、済まないが私はこれから所用があってね、残念だがここでおいとましなくてはいけなさそうだ。」

「そうですか。残念なことです。」

「ほんとうに申し訳ない。」

「いいえそんな!
先生、もしよろしければ今度ご一緒にお食事でもいかがです?
私、先生と久しぶりにゆっくりお話したいのですが…」

「ああ、もちろん。
本日のお詫びもかねてぜひ。」

「ありがとうございます。
では、本日のわざわざのお運びに心から感謝いたします。」

「こちらこそ。
素敵な時間を過ごさせていただいた。」

では失礼する。
そう言って去っていく水島を、由莉は相変わらずの笑顔で見送った。
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