ZAGARDIA TALE

□第一章
1ページ/21ページ

「ーっくしょん」

しんしんと静まり返った森に盛大なくしゃみの音が響いた。

「む〜困りました。今まで生きてきてこんなに困ったのは初めてですよ。
ついでにいうならこんなに寒い思いも初めてです。
なんだって私がこんな目に…」

先ほどから一人ぶちぶちと文句をぶちまけているのは
見た目12,3くらいの少女だ。

木枯らしよろしく吹きすさぶ風に漆黒の艶やかな長髪を遊ばせ、夜目にもはっきりとわかるほどに白い肌を持った少女は
万人が愛さずにはいられないほど愛らしく美しい。
こんな森の中、生い茂る木々の合間を縫って差し込む僅かな光に佇む姿を誰かが見ようものなら
まず間違いなく、森の精と思うだろう。

しかしよく見ると、少女は満身創痍だったりする。

少女がまとっている
否。少女が体に巻き付けている
もともとは美しかっただろう深紅の布は
破れたり擦り切れたりでぼろぼろになっていたし
少女自身、擦り傷や切り傷だらけだった。

「それにしても…
私はどうやら見事に迷子みたいです。
多分これが遭難というやつに違いないでしょうね…
だとすればこれ以上歩き回るのは建設的じゃありません。
よし!ここはひとつ、このあたりで一旦停止、状況分析というのが好ましいでしょう。
うん!それがいいです!」

言い終わるや否や 少女は手近な木の根元にへたり込んだ。

念のため首を巡らせてみる。

前はひたすら木。

後ろもひたすら木木。

左もひたすら木木木。

右もひたすら木木木木。

初めて見たときとこれまた何も変わらない風景。

何でか知らないけれど、気づいたら森の中
そんなとんでもない状況から立ち直ってからしばらく
とにかくこの森を出るべく、もうずいぶんと歩き回ったはずだ。




それなのに
森からの脱出はおろか
こうして何一つ変わらない景色を見ると、
自分は一歩もすすんでないような錯覚に陥る。





怖い…





体の底から来る震えを少女は寒さのせいにした。

助けて!

そうやって助けを求めて、誰かにすがりたくても
少女には呼べる名前がなかった。
いや…呼びたい名前があっても、その資格がないとあきらめていた。
そうするしかなかったから…
















ここはどこ?

今は朝?夜?

いったいどうなってるの?

それに……


私はどうなってしまったの?


なにもかもわからないことだらけだった。

それに…

「明らかに小さくなってますよね…」

そう。
今自分の目の前にある掌は
記憶にある18歳の自分のそれよりも幾分か小さいのだ。



体が縮む



とんでもないことには違いない。
普通なら大騒ぎすべき事態だ。
でも、すでに十分混乱している少女は感覚が麻痺していたし
何よりも
そんな元気がなかった。

「う〜ん…
とりあえずやっぱりどうしてもこの森から出なきゃいけません。
でもその前に…」


ぐぅ〜〜

少女のお腹から情けない音が出た。


「…食べ物を探しましょう。」


少女は再び立ち上がった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ