◇変わらない想い


□見えない"ひび"
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体に打ち付ける雨粒と海水。
荒れる鉛空。
思うように動かない体。

津波の轟音とそれにのまれる船員たちの悲鳴。

大きく揺れる貨物船。
焦る教官の指示が飛びかう甲板には海星のような魔物。
その体は黒く、ところどころ怪しく紫に発光していた。
それは見たこともない魔物。

手すりにしがみつく他の生徒たちは戦える状況ではない。

魔物が吠える。
その咆哮は空気を揺るがし、近くにいた者を吹き飛ばす。
生徒が1人、また1人と海へと落ちていく。
教官が手を伸ばすも、水で濡れてろくに掴めない。

どうしよう、どうしよう。

あたしに向かって教官が叫ぶ。
中へ、入れ、と。
でも、船室へ戻ったところでどうするのか。
この魔物を倒さなければ船は沈むだろう。

それでは、あたしたちに待つのは死あるのみ、だ。

怖い、怖くない。
あたしは双剣を双銃へと持ちかえ、魔物へと向ける。
下手に飛び出す訳にはいかない。

あたしは水で滑る銃を握る手に力をこめる。
そして無我夢中で詠唱した。
雷の塊が銃口から魔物に向かって迸るが、弾かれる。

どうして、攻撃が効かないの…助けてヒューバート…。

魔物が回転しながら迫る。

初めて、死を覚悟した。

銃を捨て、剣を抜き思いっきり振りかざす。
すると、光を放つ両の手。

何が何だかわからないが、左右から放たれた魔神剣は火花を散らしながら魔物へと直撃。
そして魔物は断末魔をあげて消滅した。

倒せた…の?

光を放つ自らの手を見つめる。
この光のおかげなのか?

教官たちがこちらに駆け寄ってくる。

空が晴れゆく…。
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