◇君を裏切らない
□6:key to my heart
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「失礼します。」
「来たか、アーシェ…。」
フレデリックに左足の手当てをしてもらい、歩けるようになったわたしは、アストンさんに言われていたように執務室を訪ねた。
アストンさんは腰かけていた椅子から立ち上がり、わたしと目線あわせて片膝を立てて座った。
「話…って何ですか?」
「これを、渡しておこうと思ってな。」
「首飾り…?…これは鍵ですか?」
アストンさんが取り出したのは、銀のチェーンに小さな宝石などのいくつかのチャームのついた首飾り。
その中には鍵らしきものがチャームに紛れてついていた。
「これは、ヴァンフォーレ家の屋敷の鍵だ。」
「…っ!?」
「アーシェが12歳の誕生日を迎えた時に…と思ったんだが、丁度、私もバロニアへ行くことになったからな。
少し早いが渡しておこう…。」
アストンさんは鍵のついた首飾りをアーシェの手に乗せ、そっと握らせる。
「ヴァンフォーレの…わたしの一族の屋敷は残っているんですか!?」
「そうだ。ラント家の別荘という扱いでバロニアに残してある。
ヴァンフォーレの屋敷に仕えていた執事が数名程、フレデリックの指示で動いているからいつでも戻れるようにしてある。」
「…そうですか…………それは………。」
わたしにラント家を出ていけということですか?
そう言いかけて、言葉を呑み込んだ。
嬉しい。嬉しい筈なのだ。
アストンさんは態々、ヴァンフォーレの家のことまで気にかけていてくれた。
けれど、少し寂しくもあった。
ちょっぴり、突き放されたというか…。
俯くアーシェの様子から、その心中を悟ったのか、アストンさんは彼女の頭を優しく撫でた。
そして静かに続ける。
「アーシェ…いや、アシュリーお嬢様。ヴァンフォーレ家はウィンドル有数の名のある一族です。
だから、貴女が当主としての道を選びたくなった時を考えただけです。
いつでも戻れるように、と。
しかし、アーシェが私の大事な一人娘であることに変わりはない。この意味が…わかるか?」
「……はい。ありがとうございます、お義父さん。」
アーシェは受け取った鍵のついた首飾りを強く握る。
そして、今回、バロニアに行くのは一度屋敷を見に行くためだという。
少し不安、少し楽しみ。
アーシェは一礼してから執務室を後にしようとしたが、1つ疑問が浮かび、アストンさんを振り返る。
「じゃあ、ヒューバートはどうしてバロニアに?」
アストンさんは一瞬目を見開いた後、少しだけ辛そうに答えた。
そしてその答えは、わたしの中のヴァンフォーレの屋敷への期待など簡単に消し去ってしまった。