短編集
□花魁に刃を向けるな
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吉原の遊郭の一画に、蒼玉の髪と瞳を持った遊女
否、花魁がいた。
だがその花魁は侍の間では、『血染め花魁』と謂われている。
何故そう言われているのか。
それは…彼女を手に入れようとした権力者は、すべて死して帰って来るのだ。
――吉原
「あいちー!朝だよ!」
「おはよう、えみ。今日も早起きだね。」
「あいちがお寝坊さんなの!ほら、みさきさん待ってる!」
あいちとはこの吉原の最高の遊女・花魁である。
彼女の禿であり、妹であるえみは彼女の低血圧に悩んでいるが、それでも姉のためにせっせと働いているのである。
「おはよう、あいち。」
「おはようございます、みさきさん。」
「みさきさーん!今日も、お客さん連れてくるんですか?」
みさきとはあいちの番頭新造である。
番頭新造とは、器量の悪い遊女や年季を勤めた遊女が行う、花魁専用の現在で言う芸能人のマネージャーのようなものだ。
彼女の場合、数多くの客をボロボロにしてしまったため、叔父によってあいちの番頭新造に就くこととなった。
「…ねえ、あいつ変わってない?」
「櫂君のこと?」
「そう。あいつ、何か変わったことあった?」
するとあいちは苦笑いし、こう言った。
「そうだなー、僕に対して過保護になっちゃったかな?僕が外に出るのもえみと一緒じゃないとダメって言ってるから。」
「あいつ…バカだろ。」