†Jilbreak“Demone nero”†

□同情か信用か
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『主、お出掛けですか?』



朝食を終えた少女は自らが主と呼ぶ少年・沢田綱吉が玄関にいるところに遭遇した。

シャツにネクタイ、ベストを着ている彼の姿に少女は はて、と首を傾げる。



『それは一体何の隊服で…?』


「た、隊服…あ、制服のこと?
俺の通ってる中学のですよコレ」


『せ、制服…あ、制服っすよね…』


「?紫鬼さん、」


『申し訳ないっす主、つい職業病が…
ところで中学校ってどんなのなんすか?』


「え?紫鬼さん中学行ってなかったんですか?」


『学校というものに行ったことが一度もないんすよ』


「えっ…何でですか?」


『それはー…』






“ーあ?てめぇが学校なんざカスみてぇな所に行く必要はねぇ ”

“ でも紫鬼はロクな知識を持ち合わせてないんすけど… ”

“ ンなもん俺が全部教えてやる”






『行かせてくれなかったんすよ』


「え?」


『過保護なんだかヤチモチ妬きなんだか知らないんすけどね、あの人は学校に行かせない代わりに今紫鬼が持ってる知識のほとんどを教えてくれたんすよ』



一体誰の事を思い浮かべて言っているのかはわからなかったがその人物は彼女にとってとても大切な存在であることを察した綱吉は何も言えなくなった。




***



綱吉が学校へと行った後。
紫鬼は沢田家の縁側に座っていた。
綱吉が家を出るとき、外には2人の少年が待っていて、そして彼はその少年たちと笑顔で歩いていった。

それを見た時に胸に込み上げてきた、
熱いものー…

それは一体何で、自分はそれをどうしたいのかを考えようと思ったのだ。



「そこで何をしているの」



背後から声を掛けてきたのは大人びた美しい少女。
彼女を認識すると紫鬼は庭に転がっているボールに視線を落とした。



『ねぇビアンキ。主とともに歩いていった少年たちは主の“友達”というやつなんすか?』

「…えぇ、そうよ」

『主がその少年たちと笑っているのを見たときにね、紫鬼は胸が熱くなったんすけど、それはー…』



そこまで言うと紫鬼は話すのを一度止め、そしてぽつりと呟いた。



『そうか、羨ましかったんだ』



彼女はつい最近まで復讐者の牢獄の最下層に沈んでいた。
その前までには少なくとも“友達”はいたが、やはりそれは8年前の話。
ましてや生きているのかさえも知らない。

そんな彼女は綱吉を見て『いいな』と、羨ましいなと思ったのだ。

あの胸に込み上げてきた熱いものは羨ましさ故の焦燥感だろう。



『やっぱり主は凄い人だな…
紫鬼が持っていないものをたくさん持っていらっしゃる』

「貴方が持っていないもの…?」

『主は優しさも暖かさも持っている。笑顔も、友達も、家族も…』



ああでもこうして羨ましいと思うのは醜い心の表れかな?
相変わらずの無表情で“笑う”紫鬼にビアンキは苦しげに眉をひそめた。

出来ることなら彼女の“友達”になってあげたいと同情する反面、
“黒鬼”と呼ばれる彼女を容易に信用することは難しい。
むしろ容易に信用してしまうことはこの世界では死を意味することに等しいのだとビアンキら知っているのだ。









同情か信用か。









ごめんなさい、
そう心の中で呟いて寂しげな背中から目を背けた。


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