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□緋の瞳に誓おう
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「クラピカ!」

不意に名前を呼ばれ、クラピカはハッと顔をあげた。

何時間ほど経っていたのだろう。
すっかりある本にすっかり夢中で、周りの声が聞こえなくなっていた。
少し怒ったようで、クラピカの同胞が目の前で任天立ちしているのが見えた。



「ああ、すまない。なんだ?」

「今何時だと思ってるの・・・?悪い癖だよ、本に夢中になりすぎるの」



柄にもなく、慌てた様子でクラピカは空を見上げた。
辺りは暗く、日も沈んでいる。
満月が、はっきりとした血のような赤い色で光っていた。



「・・・な・・・私はこんな時間まで・・・?」

「そ。クラピカのお母さん、また怒ってたよ?だから僕が呼び出しに来たってわけ」



朝早くから夜まで、ずっと本に読みふけっていたらしい。
クラピカはうぅ、と困ったように額に手を当てた。



「まいったな・・・。今日で3度目だ。何をされるか分かったものではない」

「ふふ、追い出されるかもね。そしたら僕の家にでもおいでよ」


そう楽しそうに笑う彼は、クラピカの唯一の親友と呼べる人物だった。
クラピカは滅多に友達など作ることはない。
どれも全て一人でこなすことができたからだ。


だが、ある出来事により、彼と親しくなった。
馬も合うし、何よりクラピカは彼と性格が似ているといえるから。

二人はすぐに一番の仲良しコンビと同胞に認められるほどになった。




「さ、早く行ったほうがあんまり怒られなくてすむかもよ・・・?
僕もついていけば、きっとそこまで怒られないだろうし」

「うむ・・・。そうだな、ぐずぐずしていても何も始まらない。行こう」


重い腰を上げるクラピカに、彼は少し不安げに頷いた。
クラピカがどうした、と問うのに、彼は何でもないんだと無理矢理微笑んで見せた――・・・。




家の前に着いた。
辺りはしんと静まり返り、まるで嵐の後の静けさといっていいだろう。

クラピカの母親の怒っているときのピンと張り詰めた空気は、これといっていいほど感じない。

クラピカは、何故だろうと警戒しつつもドアノブをぎゅっと握った。

冷や汗が頬を伝う。

その冷や汗は、母親の怒りに対するものではなく、別のものだった。
何かある、それだけは分かっていたからだ。


「クラピカ」

「・・・・・・」

「大丈夫だよ、ほら、僕がいるから!」


明るい声で普段は喋らないのに。

彼のクラピカを落ち着かせようという気配りに、クラピカは安堵したように息を吐く。


「・・・ありがとうな」

そう言って、ドアノブを勢いよく回した。





「・・・・・・・・・え・・・?」


部屋に入ってのクラピカの第一声はそれだった。
叫び声を上げるでもなく、口から勝手に漏れてしまったという感じであった。


その光景は、ただただ無残としか言いようがなかった。

母親は血まみれで倒れ、目だけを抉り取られている。
部屋は血で真っ赤に染まっていた。


「・・・は、母・・・上・・・?」


普段は冷静に物事を分析するクラピカの頭も、今回ばかりは思考がのろのろとはたらく。

いや、寧ろ信じたくないという気持ちがクラピカにあるのだろう、涙は不思議と流れることはなかった。


「・・・えっ」


彼の口から漏れた言葉も、それと同様だった。
信じたくない。
二人はただそう願い、横たわる死骸を見つめていた。


だんだんと、二人の目は緋色に染まり始める。

その瞬間だった。


「そろそろだなァァッ!!!」

シュッと黒い影がほんの一瞬見えた。
それと同時に、赤い血しぶき。
あのときの満月と似たような色だ、とクラピカはぼうっと思っていた。


「う・・・ああッッ!!!」


叫び声に、クラピカは我を取り戻した。
何故なら――・・・・



――・・・その叫び声は、彼のものだったのだから。



「逃げてぇッッ!!クラピカッ!!」


彼の左腕は、あの一瞬で消えていた。
ほう、とあの黒い影は目を細める。
只者じゃねぇな、と呟く声が、クラピカの耳にはっきりと聞こえていた。


「あ・・・あ・・・」


クラピカの声が自然と震える。
何を見ているのか、自分でも全く理解できなかった。

ただ、目に涙が溜まっていくことだけが分かった。


「ふふ・・・そろそろ、だな。お前のその瞳を奪還するときは」


何を言っているんだ?こいつは。
嘘だ。絶対嘘だ。
今起きていることも、目の前に広がる光景も、全部。
母上が死んでいるのも。
あいつの片腕がなくなっているのも。



もうクラピカの頭には、何も入ってはいなかった。
全てを捨て去ろうと、別の世界へ逃げ込もうと。
クラピカなりの努力だったといえるだろう。

だが、敵は待たなかった。


クラピカへ、魔の手が忍び寄るのを、クラピカはぼうっと眺めていた。
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