みじかいよみもの

□秋桜の喪失
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《秋桜の喪失》



「おい、なに呆けてんだ」


「ぇ?…ぁ」


かり。
指先を噛まれて、はっとした。
噛まれた、とは言っても痛みなんて感じない。
甘く疼かせるような。
元来、恥ずかしがり屋の桃はこういう触れ合いが極端に苦手だ。
好きな人。
ロマーノに触れられるのは嬉しい訳で。
しかし、どうしても羞恥心が邪魔をするのだ。
普段の桃なら、顔をトマトのように染め、目を白黒させ逃げ出している。
いや、今だってそうしたい気持ちはある。
だが。
桃はベッドの上でロマーノに押し倒されていて。
しかも、ズボンを脱がされTシャツは胸辺りまで捲り上げられ…
つまりは、そういった雰囲気という訳で。

何故この状況になったのか、分からない。
久しぶりに、逢えた。
お互い忙しい身の上で遠距離恋愛。
突然訪れた恋人に驚きながらも、ご飯を食べてもらったりお風呂に入ってもらったり。
あぁ、それで。
寝る所を考えてたのだ。
疲れてると思うから、一人で寝た方がゆっくり出来るよね。
畳だから、枕と毛布があれば自分は寝れるし。
そんな事を思いながら、ベッドに置いていたクッションを掴んで…掴んだ、ら。
腕を引かれて、口を塞がれて…

ぽた。


「ロマーノ、さん、風邪」


引きます。
頬に落ちた雫。
噛んだ指先に舌を這わせているロマーノ。
ぽた…ぽた。
髪から落ちる雫が、濡れたままなのだと告げてくる。
目を閉じ、まるで…。
まるで、味わうかのように。
咥え、舐め、歯を立て。
限界を感じた桃は、そう言ってロマーノを止めようと、した、のに。


「ぁ…」


気だるげに、開かれた瞼。
それなのに。
瞳が。
隣の部屋からの、微かな灯りを受けて妖しく光る。
しまった、と思う。
逸らせない、誤魔化せない。


「嫌なのかよ?」


「っ、?ひゃあっ」


「集中してねーし…まぁ」


感じてるが。
確かめる様に撫でられた場所。
考えるよりも早く、桃は足を閉じた。


「…Idiota」


低く色を纏う声。
ロマーノはじっ、と桃を見つめた。
捕らえられた視線。
ひくり、と喉が戦慄く。
あぁ、言う通りだ。
敵う訳なんか、ないのに。
内腿に挟まれた手は、そのまま弱い所を責め立てた。
それを止めようと伸ばした手は、阻まれる事はない。
だが、意味を成さなかった。
両手で掴んでも、退かす事も止める事も出来ない。


「ろ、ロマーノさんっ、ぃ、ゃあっ」


湿り気を帯びてくるソコ。
触れられた場所から、這い上がるナニカ。
思考が止まる。
抵抗も。
腕を掴んでいる手から力が抜ける。
手を挟んでいる足から力が抜ける。


「濡れすぎ…」


責め立てていた手が離れた。
ロマーノは自分の指先を舐める。
その指先は桃の愛液で濡れていて。
つまりは。
身体が、 反応して、いるという訳で。


 
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