みじかいよみもの

□君自身が"愛"
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「やっぱり無理や!」


スペインの声は雲一つない空に向けて上がった。
隣に座っていた桃はいきなりの大声にビクリと肩が震える。

デートしよう。
と、スペインに誘われて外に出て数時間。
服屋に入ったり、喫茶店でお茶したり。
行く所は桃にとって見慣れた場所。
しかし、特別でもない店も道も景色も。
今の桃には特別だった。
なかなか会えないスペインと一緒に居れるから。
だから、小さな公園での一休みも嬉しくて幸せで。
だけど…

(嫌、だったのかな?)

叫んだ後、俯き肩をわなわなと震わせているスペインを見ると桃は不安になった。
自分ばかりが楽しんでいたのかと思うと申し訳なくて、悲しくて。
ごめんなさい。
そう言おうとした、ら。
スペインはバっと顔を上げ、桃の両手を握ってきた。
その顔は何故か泣きそうで…いや、実際スペインの目尻には涙が滲んでいて、桃は驚くやら困るやら。
わたわたとする桃をよそに、スペインは桃の手を自分へ引き寄せ泣き叫ぶように声を上げた。


「好きや!」


「ふぇっ!」


「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き!愛してる!!Usted no puede morir!大好きや、桃〜!」


最後は桃を抱き締めながら、スペインは正に愛を叫んだ。
誰も居ないとは言え、普段でも恥ずかしい事を外で言われ、しかも抱き締められて…
桃はそれはもう真っ赤に熟れたトマトのように顔を赤らめた。


「なっ、すぺ、ぁ、アントーニョさんっ」


「親分には無理や〜、好きなんやもん好きなんやもん!」


桃〜!
ぎゅっ、と更に強く抱き締められながら桃は誰も来ない事を祈った。


《君自身が"愛"》
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