みじかいよみもの

□腕に閉じ込めて
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「ぇ…?」


《腕に閉じ込めて》



目に飛び込んできた整った顔。
一瞬、自分がどこにいるのか、何をしていたのか分からなくて。
しかし、それは自分の姿を見れば直ぐに解って。
顔に火が着いた。


「わ、たし…」


白蘭さん、と…。
そこまで口にして、桃の頭は先程の情事で埋め尽くされた。

火傷しそうな、熱。
求めるように、奪うように、押し寄せる…何か。

―好き、愛してる……桃チャン―

―桃―
何度呼ばれたか分からない程。
たくさん囁かれた、自分の名前。

その声は。
触れる手は。
切なくなる程、優しくて。

まるで…。


「ほんとうに、好きって…いわれた、みたい…」


そんな事、ありはしないのに。

わかっていた事なのに、悲しくなって。
がっちりと包んでいる腕から逃れた。
いや、逃れようとした。


「……どこにいくの」


「ぁ…っ、!」


不意に開いた瞼。
じっ、と見つめてくる瞳に気圧されて、魅せられて。
動けないでいると、両手が拘束された。

―ぎしッ―

そう、ベッドが軋んで。
視界に、天井と。
天井以上に、桃の視界を埋める、その人。


「…泣いてるの?」


「ぇ…?」


泣いて、る?
だれ、が…?


―ちゅ―
目尻に温かいものが触れて。
そんな音が耳に届いて。
桃の頬を濡らしていた雫はなくなった。


「っ…!びゃく、らん…さん?」


「謝らないよ」


「ぇ…」


「本気、だから…軽い気持ちで、桃のコト抱いたりしてないから…だから…」


だから、嫌がったって離さない。
首筋にぴり、と走った電撃。
再び増えた、愛された証。

白蘭の言葉に一瞬呆けて、次いで桃の頬がまた濡れた。


「また、泣くの?」


「は、ぃ…だから、」


だから、また止めてください。
今度は白蘭が呆ける番だった。


「な、に…?」


緩んだ拘束から逃れ、桃は両手を伸ばし白蘭を抱き締めた。
瞳からは、止めどなく、際限なく、雫が零れている。
しかし、その顔はとても…


「も、も…ちゃん…?」


「これから、は…むりやり、は…いや、ですよ」


へにゃ、と。
柔らかく、微笑んだ桃。
白蘭は誘われるように、唇を寄せた―――。










(どうして、あんなコトを…?)
(桃チャンが、日番谷クンの家に泊まったって聞いて)
(聞いて?)
(それだけ)
(え!?)
(だって、桃チャンのコト、ずーっと好きで欲しかったのに…盗られたって思ったんだもん)
(と、盗られたって…日番谷くんは幼馴染みで、ほとんど家族みたいな関係だから…)
(…日番谷クン、カワイソーにね)






《腕に閉じ込めて》
おわり
 

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