みじかいよみもの

□ただの独占欲
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「ぁ、ふっ…す、ぺ、っ…さんっ…!」


私の意識は途切れた。

《ただの独占欲》




静かな部屋。
射し込む光は月明かり。

いま、何時?

定位置にある目覚まし時計を見ると、すでに日付が変わって"明日"になっていた。
自分だけ、"今日"に残された気分。


「?…ぁ…」


起きようと体を動かし、それが出来ないとわかった。
同時に、その原因も。


「スペインさん…」


自分を惑わせて、意識を飛ばした当人が。
腕を足を自分に絡み付けていた。


「ひっ」


首筋を吐息が撫でた。
触れているのは、滑らかな肌の感触。
洋服の布越しではない、人肌の温もり。

あぁ、裸で抱き締められている。

理解してしまったら、どうしようもない羞恥が襲ってきた。

(し、死んじゃうっ!)

本気でそう思った。
心臓が飛び出そうな位、ドキドキと鳴っている。
桃はスペインを起こさない様に体を捻り、その致死量な拘束から逃れた。

桃を探す様に手を動かすスペイン。
枕をそっ、と近付けるとスペインはそれを抱き寄せまた幸せそうに寝息を立て始めた。


「か、」


かわいい…
思わず、そう感じた。
しかし、先程の事を考えるとその想いは消える。
いつもは優しくて、楽しくさせてくれるスペイン。
だけど、求められる時は違う。
意地悪な程、強引に求められ…
思い出すと鮮明な熱が思考を埋める。


「ぇ………な、に、これ…?」


熱くなった頭を冷やそうとベッドから立ち上がろうとした、ら。
自分の体に点々とある赤い痕に気付いた。
それは、愛された証。
この人のものだという所有の証。
光に照らされた自分の体は、自分の体ではない気がした。


「なんで、こんなに…」


見えるだけでも体の隅々まで、紅い華が咲いている。
腕や足、胸、他人には触れさせない大事な所も…
なぜ?
体を重ねる度、それは思っていた。
どうして、痕を残すのか…


「風邪、引くやろ?」


掠れた声が後ろから聞こえて、驚く前にベッドへ引き込まれた。


「す、スペインさんっ」


起きて、いたんですか?
そう言うとスペインは更に腕に力を入れ桃を抱き締める。


「ん〜、いや?寒いなぁ硬いなぁ、て思たら枕やったんやもん」


親分寂しかったわ〜。
すりすりと頬擦りをしながら、スペインは桃の体を撫でる。
それは、先の情事を思い起こさせるには十分で。
桃は気を逸らそうと兎に角口を動かした。


「っ…ぁ、あの、スペインさん」


「ん〜?」


「な、なんで、痕、つけるんですか?」


痕?
と、一瞬動きを止めたスペイン。
桃はその隙に距離をとりつつ振り向いた。
何の事だ、と言いたげな瞳にその"痕"を示す。
たくさんあったから、どこを指しても同じ。
見もせず、首筋辺りを指差すとスペインはあぁ、と頷いた。


「なんで、て…ん〜可愛いから」


「ふぇっ?」


「ははっ、ほら。反応とか。甘い声も、感じて堪らんって顔も」


「〜っ、そんな事、言わないでください!」


まだ恥ずかしい事を言いそうなスペインの口を止めようと桃は手を伸ばした。
自分で言っておいて、とは思うが恥ずかしいものは恥ずかしい。
しかし、伸ばした手は握られ引き寄せられてしまった。


「桃が聞いてきたんやろ?」


「だ、だって、あんな事、…」


「あんな事て…ホンマの事やし。あ、じゃあ桃も俺につけてーな」


いい考え、とばかりに目を輝かせそう言ったスペイン。
桃はへ?と間抜けな顔をしその瞳を見つめ返した。


 
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