ツイステ×ぐだ子

□どうか
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《知らない事は》



「言った通りでしょう?」


ここには、何もありません。
薄暗くぼんやりとして、どこかひやりとした鏡の間。
響く声は静かに胸の底へ撫で付けられた。
浮かぶ棺の蓋を閉めながら告げられた言葉に、納得はするものの残念だと思わずにはいられない。
はぁ。
出してしまった溜息は許して欲しい。
もうここしか思い当たらなかったのだ。
聖杯は関係ない、とは云え。
いや、だからこそ何が切っ掛けになるか分からないから。
学園内を歩き回ったり、探し回ったり。
本を読み漁ったり、魔法具や薬等を片っ端から触れてみたり。
揉め事に関わってみたり。
出来る事はしてみた、けれど。
手掛かりらしきものは得られなかった。
今一度、周りを見渡し再び深く息を吐く。


「おやおやぁ〜。そんなに溜息を吐くと幸せが逃げますよ?」


仮面の下で形の良い唇が楽しげに緩んだ。
そうですね、と返しながら考えようとして…止める。
分からない事を考えるのではなく、出来る事をしなければ。


「そういえば、グリムくんは?」


「心配しなくても大丈夫です。私がいなくても、グリムはいい子なんです。今頃、トレイさんのケーキを食べてます」


「ぁあ!ハーツラビュル寮の『なんでもない日』ですね!いいですねぇ、私もケーキが食べたいです。それにしても、ホリデーの間に随分色々あったんですね」


「そうです。電話に出てくれたら、リアルタイムで報告出来たんですよ?」


嫌味、のつもりはなく事実を言っただけ。
スカラビア寮での事件。
夢での事…と、云うより魔術師の事やら女だと話した事等々。


「あああああ、本当に悔しい限りでした!まさかマナーモードになっていた上に電源が切れていたなんて思いもよらず!」


「本当に携帯する意味がないですね」


涙なんか、出てもいないのに拭う動作まで付けて反省のポーズをとる学園長。
彼の劇作家にも負けず劣らずな大仰さに、ツッコミを入れながらも笑いが込み上げる。


「それにしても、皆さんの判断は適切だと思いますよ?存在証明とやらに、貴方の事情を周知してもらう事が必要なのは分かりましたが…ここは男子のみの学舎ですからね」


女性だという事だけは、今後も伏せておくべきですね。
すっ、と演技を止め突然真顔になったその様子に驚いた――のではなく。
驚いたのは、うんうんと一人で頷きながら言われたもの、に。


「そういうもの、ですかね?」


「ですかね、って、そんな剣呑な…は!まさか、貴方、隠そうとしてなかった…?あぁ!服装を気にしてなかったのは認識操作の魔術があるからではなく、その為ですか?!いけません!いけませんよ!!」


男はオオカミなんですよ!!
がしりと肩を掴まれ、強く畳み掛けるように説き伏せられるも訳が分からない。
一周回って新しいフレーズにも実感は湧く筈がなく―――。



《知らない事は》
終わり
(あ、お手伝いの事なんですが)
(はい、次はこれですね。確か今年でしたし…そろそろお姫様も…)
(え?)
(いえいえ!こちらの話です!あ、そうです!モストロ・ラウンジでもバーテンをし始めたそうじゃないですか。頼んでいる此方が言うのもなんですが…大丈夫ですか?)
(ふ…これくらい、素材周回に比べたら)
(え、ちょっと、既に疲れてません?もの凄く虚無な目をしてますが)
(大丈夫です!疲れたらちゃんと休みます。それより、)
(あぁ、分かってます。グリムくんもなんだかんだ馴染んで落ち着いてきてますしね。その時が来たら)
(来たら?)
(え?………は!嫌ですねぇ!疑ってます?もちろん、勿論!私もちゃんと探してるんですよ!)
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