ツイステ×ぐだ子

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《振り、をして》



空調がおかしくなって数日。
原因は妖精とか、魔法石がなんとか。
何度言わせれば気が済むんだ!
聞いても聞いても通り過ぎて行く説明は、既に相手を揶揄うネタになっていた。
暑さに加え、怒りでも真っ赤になったアズールを見ているのは楽しかったけれど。
干上がりそうな寮内へ留まる理由にしては弱く…というか、飽きて。
スカラビア寮は寒いらしい。
と、聞いてしまえば、興味が湧くのは必然だった。
僕は、いいです。
おとぎ話のお婆ちゃんみたいな嗄れた声を思い出す。
魔法で出した氷の塊を抱えたジェイドにはそう誘いを断られた。
帰ったらタコとウツボの干物が出来上がってたりして。
有り得ないだろう事を思い描き、笑ってしまった。
暑くて暑くて暑くて、イライラしていた気持ちが少し――いや、大分スッとした。
で。
いざ、ラッコちゃん達の寮に行こうとした、ら。
なんとなく、他がどうなってるのか気になった。
ふらふらふらふら。
気の向くまま歩いてみると、これが意外と楽しい。
蒸発しそうに暑い場所もあれば、手足が悴むように寒かったり、緩やかなで涼しい風が吹いていたり。
その境が突然で面白い。
戻って、回って、進んで、繰り返していた――時だった。
ふわん。
遠目でも、見違える筈もない温かな色の髪が一房映る。
小エビちゃんだ。
と、認識するよりも前にぽぽぽっと胃辺りが温かくなった。
なるべく音を立てないように、けれども速くなる脚に鼓動も釣られる。
道から逸れた隅。
木と木、草影と草影の間。
そこで。
かくれんぼでもしているかのように、小さな体を更に小さくしている小エビちゃん。
その丸まった背中の真後ろに立つ。
肩を叩こうか、頭を撫でようか、それともぎゅぅーっとしようか。
挙がる案はしかし、顔が見たい欲求に押し流され驚かしは単純なものに決定した。
なにしてるんだろ?
疑問と同時に口端がぐぐっと上がる。
叫ぶだろうか。
怒るだろうか。
笑うだろうか。
色々な顔の小エビちゃんが出てきて、跳ねそうになる脚を必死に抑える。
果たして答えは、思い描いたどれでもなく…驚かされたのも此方だった。
いや、驚かされたなんてものじゃない。


「わっ、フロイドさん」


びっくりしました。
言って、逆さまの小エビちゃんの目元がへにゃりと緩む。
それは頭の中に浮かんでいた顔の一つではあった。
確かに、そうだった、のに。
折り曲げた腰から下が感覚がなくなり、倒れ込みそうになる。
いや、実際倒れた。
真下にいた小エビちゃんを避けたから、勢い良く寝っ転がった感じだ。
自分を誉めたい。
だって、オレが乗っかったりしたら絶対潰れちゃうから。


「ぇ…え?!フロイドさん?!」


うるさい位の声が振り掛かる。
嫌な気持ちにならないのは、聞きたかった声だからだ。
その声で名前を呼ばれるのは嬉しい、けれど。
慌てる小エビちゃんは面白い、けれど。
今は、何も、入ってこない。


「こえ、び、ちゃ、…な、」


「へ?あ、ぁあ…」


あはは。
オレの視線の動きに小エビちゃんが笑う。
なん、で…なんで、笑うの?


「フロイドさんは、トラウマってありますか?」


「と、ら、うま?」


「はい。私には、そういうの無いって思ってたんですけど…あったらしくて」


さっき気付いたんですけどね。
無理矢理でも、仕方無しでもない。
いつもの通り、普段の通り。
顔で、声で、オレを見て、話す。
差し出された手は、自分のより小さくて、小さ過ぎて――躊躇う。
だって、


「っ、」



伸びてきた小さな手に投げ出していた手を掬われた。
想像より…いや、想像もしていなかった。
弱々しさすら感じるその手に、確かな力があって強さがあるなんて。
ふに。
柔らかな感触と熱さすら感じる温かさ。
嫌なワケはある筈もなく、心地好いくらいで。
それなのに…
きゅっと喉が締め付けられたようだった。
声が、出せない。
大丈夫なのか、とか。
誰にされたのか、とか。
他にも聞きたい事があるのに、ある筈なのに。
なにか…に、耐えれなくなる気がした。
何に?
感じているのは自分。
問うのも自分。
だというのに、答えが分からない。
抵抗する間もなく――するつもりなど頭にもなくて。
引かれるがまま、されるがまま、で。
気付けば、小エビちゃんと向かい合うように座っていた。
眼下の橙色は変わらず小さいままだ。
小エビが突然ロブスターになる訳もない。
のに。
オレの目には、世界には、一人しかいないようだった。
チカチカチカ。
初めて太陽を直で見た時のような…
ちゃんと見たいのに、見ていたいのに、輪郭しか掴めない。
そんな、もどかしさに呆けて握り返す事も出来ず。
離れていく温かさが寂しくて。
だけど、追い掛けれない。
だけど、離れたくない。
指先で摘まんだのは制服の袖口だった。
だっさ…ダサすぎ。


「…トラウマ、と、その頬っぺたと、どう関係あんの?」


「いやぁ、その、フラッシュバックで、こう、気が遠退きそうになって…ちょっと、活を入れるつもりが力一杯に殴ってしまって」


失敗したなぁ、と云うように下がった眉。
その下――右頬は腫れていた。
拭ってはいるが、血が垂れた痕もある。
きっと、口の中が切れたんだ。
自らを傷付ける。
それは極限状態故の行為だ。
身の内で処理出来ないのに、己でどうにかしようという足掻き。
助けてと、言えないのか。
それとも…


「うーん…気持ち悪い話なんですけど」


聞いてくれますか?
迷って、悩んで、それでも声になった言葉。
聞かない、の選択肢が自分の中にある筈もなく――――。




《振り、をして》
終わり
(わ、すごい!腫れが引いた)
(リツカさん、まだ動かないでください。見た目だけなんですから。はい、口を大きく…あぁ、やはり切れてますね。少し染みますが、そのま)
(ダメ!それダメ!てか、アズールさっきからずりぃ!)
(そうです僕と代わってくださいえぇえぇ是非僕と)
(は?なんでジェイド?小エビちゃん連れてきたのオレなんだけど)
(フロイドはリツカさんと二人っきりでお話をしたのでしょう?ならもういいですよね)
(ぜんっぜんよくねぇし。氷でも抱いて寝てろよ)
(フロイドこそ。暑くてスカラビア寮に行くと言っていたではないですか。あぁ、腰が抜けたんでしたねぇ?気が利かなくてすみません。吹き飛ばして送ってあげましょう)
(お前達?うるさくするなら、僕が吹き飛ばしますが?)
((うるさい/ですね。ヘタレ蛸))
(誰がヘタレだ!)

(ふふ、本当に仲良しだなぁ)
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