ツイステ×ぐだ子

□代わりに
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《意味を知らなければ》



「年末は本っっっっ当に、忙しい!トナカイになってプレゼント配って、冥界に降りたりしたし…年明けは年明けで初夢で江戸に行ったり…旅館もお手伝いしたし」


あとは…あれはハロウィンだ。年明けは武蔵ちゃんとも会ったような。
学園長を探しに鏡の間へ向かう途中。
廊下は既に人の流れが出来ていて、最早一方通行になっていた。
いそいそと足早な周囲の空気に押され、思わず乗ってしまいそうな歩幅を加減しながら。
少し下にある視線へ問う。
フジ、いや――。
リツカ、は。
懐かしそうに、疲れたように、でも楽しそうに、とくるくると表情を変えながらそう答えてくれた。
ホリデーバケーションは、寮生活から解放される楽しみな期間だ。
単純に休みが嬉しいというのもあるが…。
何より家に帰れる、家族に会える。
そんな何でもない事を、足元がふわふわする位には心待ちだったりする。
しかし。
この二人はそうじゃない。
リツカの頭の上でキョロキョロと興味深そうに周りを見ているグリムは家族の事を覚えていないそうなのだ。
過去は振り返らないんだゾ、という言葉通り気にしてなさそうだが…
それは、自分であれば母を覚えていない事と同じな訳で。
きゅうっ、と喉が苦しくなる。
そして――


「フジマ、…リツカのそれ休みじゃなくね?」


「無理に呼ばなくていいよ?」


別に無理してねーし。
リツカの右隣でそっぽを向いたエースは不貞腐れた声で負け惜しみの様に言う。
不本意だが、それだけは同意見だ。
無理はしていない。
ただ、どうしても呼び慣れた方が出てくる時があって。
ダイヤモンド先輩からは未だに揶揄われ続けていたりする。
当の本人は、どっちでも変わらないのに、なんて言い出す始末……って違う。


「くりすますとおしょうがつは、働く日なのか?」


折角話してくれた思い出話を流す所だった。
帰る方法が見付かっていない以上、こうして聞くのは酷い事なのかもしれないが…
きっと、忘れてしまう方が悲しいと自分は思うから。
あ、違う違う。
返された綺麗な琥珀はいつもと変わらずで安堵した。


「クリスマスは…そもそも私の国の習慣じゃないんだけど。チキンとかケーキ食べたり、プレゼント贈り合ったり…あとは家族か恋人と過ごしたり」


「くすりますもご馳走食べ放題なんだな?!」


「クリスマスな、グリム。しっかし、なんかごちゃ混ぜっぽいな。もしかしなくても、おしょうがつ?もそんなんだろ?」


「まあ…でも、そういうものじゃない?」


エースの身も蓋もない物言いにリツカは気分を害した風もなく、静かに微笑む。
それは、遠くに往ってしまった日常を儚んでいる様には見えなかった。
本当に、この友は強いなぁと思う。
誰も知る人はいない。
知っている事すら常識ではない世界に放り出され――。
果たして。
同じ境遇に立たされた時、自分はこんな風に笑う事が出来るだろうか。
想像ですら寒気を覚え身震いした――その時だった。
そういうものって?
無遠慮な同寮生の言葉に対する返答に、一瞬呼吸を忘れた。


「大好きな人と逢う為の口実なんだよ」


気取った様子もなければ、照れもなく。
ただただ、普通に、ごく当たり前に。
思った事を口にしたと云った友の声音は、なんというか…なんといったらいいのかっ!
言い表せようのない感情に身悶えていたのは僕だけではなく。
あ゛あ゛ぁぁぁー!と叫ぶ声が耳に届いた。


「なんだ?コイツら」


「うん。仲が良いよねぇ」


「「そういう話じゃない!/ねーし!」」


不思議そうな顔とニコニコ顔が並ぶ。
前者はいいとして、後者は容認出来ない。
この、正に善性を善性で固めたかのような友は平然とこういった事を言うのだ。
聞いている此方こそが、居たたまれないというか…恥ずかしくなるというか。


「お前、絶っっ対!女の子泣かせた事あるだろ?!」


「失礼な。私、女の子には優し…いや、あれは違う」


よね?
エースの断定に、後半に掛けて小さくなっていった声は最後で自問していた。
あれ、とは、一体何の、何があったというのか。
気になる詳細はしかし。
騒がしさの増した周囲に漸く気付き、目当ての人物を見つけ聞く事は出来なかった。
黄色のアロハシャツに身を包んだ探し人。
重なった声は勿論自分も含まれていた。
含まれていなかった一人は、その声に紛れてぽつりと呟いていた――――。




《意味を知らなければ》
終わり
あ、新所長と色違い…じゃないか。
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