ツイステ×ぐだ子

□先に
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《泣ければ》



「…素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 
降り立つ風には壁を。 
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」


意味のない事をしている。
結果のない事をしている。
膝を抱え込みながら、右手の甲の楔を見た。
血の様に赤い痣――令呪。
今唯一自己を確認出来るもの。
窓から射し込む月明かりはボロボロの床のみを照らす。


「誓いを、此処に…」


詠唱も終盤に差し掛かったと云うのに、辺りは疎か手元さえも反応しない。
分かっていた。
分かっていて、した。
そもそも、独りで喚ぶなんて出来やしないのに。
声は届きもしないのだ。
返って来る筈の無い応えを期待するのは辛い。
辛いのに、せずにはいられない。
怖いのだ。


「……グリム?」


腰辺りに温かさを感じ辿る。
視線を落とすと、揺らめく青い炎を捉えた。
それは先程までベッドを陣取っていた者だ。
一人きりだった世界へ登場を果たした他者に驚きはしたものの、いて当たり前の存在に肩の力が抜けた。
寝てしまえば朝まで起きない、快眠なグリム。
当然、寝惚けて此方――ソファーへ来たのかと一番に思った。
のに。
リツカ、と名を呼ばれ心臓が一拍大きく震える。
悪い事はしていない。
後ろめたい事はない。
起こしてしまったのは、申し訳ないとは思うが…その声がいつになく真剣さを纏っているのに身構える。
隠さなきゃ、


「オレ様は、子分を見捨てないんだゾ」


「……本当かなぁ。補習の時は呼んでも来てくれなかったけど?」


「ふな゛ぁ!そ、それと、これとは違うんだゾ!クウキを読め!!」


「わっ!ごめん、ごめんってば」


シンガイだ、シンガイだ、と綺麗な青い炎を吐く猫。
爪を立てないパンチは痛くなくて、くすぐったい。
なに笑ってんだ!と飛び掛かられてふわふわの手が頬をつつくも変わらない。
笑いすぎて、涙が出そうだった――――。




《泣ければ》
終わり
寂しいからでも、不安だからでもない。
怖いのは…悲しいのは…――
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