ツイステ×ぐだ子

□どうにか
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《当たり前》



―神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった 
我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの 
人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図 
これを魔術世界では『人理』と呼ぶ―


「魔術…ですか」


魔法ではなく。
問いでも、かと言って得心のいった風でもない呟きに。
そこ汲み取るよね、やっぱりと嘆息した。
人理継続保障機関フィニス・カルデア。
先ずもって、人理とは何かを伝えなければならず丸暗記…いや、うろ覚えの文章をたどたどしく放った結果がこれだ。
魔術のまの字も解さない己に、魔法との違いなんてハードルが高過ぎるにも程がある。
マシュ、助けて。
切実に言おうが、土下座をしようが。
可愛い後輩は来てくれる筈もなく、再びもごもごと自信無く口を開いた。


「えーと、こっち…私の世界では、科学で再現出来る事は魔術で、出来ない事が魔法」


なんです、たぶん。
とは流石に言えなかった。
今まで聞いた事と、体感した事。
それらを合わせた自分なりの結論である。
先日存在を知ったキャスター組に知られたら小一時間の講義では済まないだろう解。
……ここまで経験をしてきていながら知識はおろか、肉体強化も礼装頼み。
本当、文句も言いたくなる。
帰ったら、もっと勉強しよう。


「なるほど…あなたの世界で"魔法"は正に神秘や奇跡の業を指すのですね」


自責と決意を同時にしていた、ら。
仮面の奥できらりと光るものがあった。
舌足らずな説明にも係わらずなんと的を射た返答だろう。
ほぅ、と此方こそが感心し授業を受けている気分になる。
それで?
大きな机を前に、立派な椅子に。
リラックスはしてるものの、座す姿は貫禄がある。
王様達とは違った威厳の在り方に気圧される思いがした。
続き、というより確実な核心を求める言葉にそれは強まる。
おお、なんだかこっちが訊問されてるようだ。
しっかりしなきゃ。


「私が在(い)るという事は、ここで何か問題が起こっているんです」


「問題とは具体的に?」


「いつもと違う事というか、異常事態というか」


「それなら、あなたですよ?」


「はい、いや、その通りなんですけど」


うーん、これはいけない。
卵が先か鶏が先かのような話になってきたぞ。
閉口し考え込む。
どう伝えるべきか、と。
…………………待て待て私は何をしに学園長室にわざわざ来たんだ。
信じてもらえるかも分からない話を。
グリムが退学という可能性すらある話を。
それをしに来たのではない。
この際、それらはどうでもいいのだ。
キッと睨む様にしてしまった。
気合いを入れただけだったのに。
いけない、と叱咤して、した、のに。


「…笑ってます?学園長」


仮面の下。
整えられた口元が綺麗な弧を描いていた。
しかも、楽しげな無駄に良い声付きで。
え、もしかして、これまでの話全部何かの冗談だと思われてる?


「あぁ、いえいえ。冗談だとか思ってはいないですよ。なんでしょうね、キャスター組の加護でしたか…まあ、いいでしょう。此方は一向に構いません。探したいものがあるなら学園内どこでもどうぞ。勿論、今のままグリムくんとここに通う事もオンボロ寮に居候も続けて頂いても結構です。ああ、私なんて優しいんでしょう!異世界のしかも厄介そうな問題を抱える者を見返りなく衣食住を与えるなんて!」


懐深すぎますね!
捲し立てるだけ捲し立て、大仰に。
劇作家よろしく、舞台にでも立っている様な台詞回しで天井を仰ぎ見た学園長――いや、もう悪魔にも見える。
盛大に良心を削りにくる言葉。
これは時期を誤ったか、それとも…――――。



《当たり前》
終わり
ああ、嗤わずにはいられない。
獲物が自ら飛び込んできてくれるなんて!
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