ツイステ×ぐだ子

□はて?
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「オマエ、女だよな?」


漸く一息つけたところだった。
ふんふんと鼻を鳴らす狸――もとい、グリムにそう問われたのは。
ピカピカ…とまでは言えないが、綺麗になったソファーに座り紅茶を一口。
あぁ、やっぱり違うなぁとしみじみ感じた。
美味しくない訳ではないのだが、一級品を憶えている舌はどうしても比べてしまう。
一手間を怠ったな、マスター。
頭の中で、赤い外套の小言が再生された。


「これでも活発美少女って言われたんだけどなぁ」


「かっぱつ?」


「それより、本当に大丈夫?お腹痛くない?」


気掛かりを口にすると、此方を見上げている蒼い瞳の横で不満げに炎が揺れる。
素気無く返されたその反応は重々承知ではあった。
が、心配なのだから仕方ない。
そっぽを向いてしまった小さな背中を注視する。
あの後もツナ缶がどうの、と言ったり。
見た目も変化はなく、痛みを耐えている様子もない。
ただ。
何か呪詛的なものであれば自分には解りようもないのだ。
キャスターが一騎(ひとり)でも在(い)ればと、と思う。
しつこいんだゾ!
送り続けられた視線が煩わしくなったのか。
竜属性アイドルの期間限定武器に似た尻尾が空間を払う様に動いた。
シャー、と子猫よろしく威嚇してきたグリムに自身を無理矢理納得させる。
判別が出来ないのだから、これ以上心配をしても意味はない。
考える事が出来ると言えば、あのドワーフ鉱山での原因だ。
恐らく、というか確実に。
聖杯が関わっているからここにいる筈なのだ、が……。
通信は当然の如く出来ず、魔術礼装もない。
見知った顔も、分かる物も、景色すら何一つない。
自分が藤丸立香であると証明するものは、皮肉な事に右手の令呪のみ。
すり。
一画も欠ける事無く鎮座する証に縋る思いで指を這わせる。
また夢の中での事、なのだろうか。
感覚に違和感は無いが…今までも、そういった類いで判断出来た例はない。


「オレ、さまは、もう、寝るんだゾ。お前は、また…にっきかぁ?」


ふなぁ〜と大きな欠伸をしたグリムはこちらの返事を待つ間もなくベッドで丸くなった。
誰だ、こんなカタイ所で寝れるワケないんだゾ!と言っていたのは。
胸中のツッコミが夢の住人に届く訳は無く。
寝息なのか、鳴き声なのか。
不思議な音をBGMに小さなノートと羽ペンを取り出す。


「……明日は、勉強机を掃除しよう」


ソファー前の机は食事には問題ないが、書く作業には適さない。
生徒としてこの魔法の学校に通う事になったのだから。
どうしたって、ここ数日より格段にペンを持つ時間は増えるだろう。
我らがマスターは余程、腰を痛めたいと見える。
今度はニヒルな笑みを浮かべる童話作家の小言が刺さり一人で苦笑いを零す。
先生なら、丁度いいんだけどね。
思わず返した独り言に、愉しげな声が聞こえた気がした。


「さて、と。…やっぱり、あの石が気になるよなぁ。学園長も知らないかな?」


あった事、気付いた事を箇条で記していきながら零れ落ちる思考を拾ってくれる人はいない。
静かな部屋にひやりとした冷たさを感じ、誤魔化すように息を吐いた。
ぎしっ。
天井を仰ぎ見るとソファーが鈍い音を立てて軋む。
視界に落ちてきそうなボロボロな照明が入り何とも言えない気分になった。


「いつもなら、誰かいるのに…」


思わず口にした声が弱々しくて、腹が立つ。
叫び出したい衝動に駆られるも、面白い寝相を披露する同居人が過り息のみを吐き出した。


「はぁー…まずは記憶喪失男子っていう設定を取り消そう」


学園長からだよなぁ。
浮かんだ仮面の反応は如何に。
等と舞台語りに締めながら、ポニーテールの黒いリボンを引っ張った――――。




《はて?》
終わり
―アホ。男子校に正式入学した奴に女がいるわけないでしょーが―
深夜の訪問者――エースの言葉は驚愕と納得を同時に齎した。
端から、その考えがなかったからか、と。
あぁ、これは、どうしよう…。
渦巻く迷いは、しかし。
ぎこちなく向かってくる青い瞳にそれを見せる訳にもいかず―――。
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