みじかいよみもの

□痛みよりも
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「どうしてそんな自信満々なんですか?」


くすくすと笑う桃。
む、と腹が立った。
腕を緩めて、責める様に桃の顔を覗き込む。


「なんで笑うの?」


「だって…これを気にしてるんですよね?」


困った様に笑いながら、桃が手を差し出す。
いや、手というより手首だ。


「…やっぱり、痛いんだね」


そっ、と労る様に触れる。
桃は痛くないと首を振った。
嘘だ。
痛くない訳がない。
自分よりも遥かに細い手首。
それを見つめながら、悔しさに似た憤りが胸を渦巻く。
俺は、夜兎族だ。
地球人とはそもそも身体の造りから違う。
桃の力一杯は、俺にとって蟻を潰す位の力なのだ。
勿論、加減が出来ない訳じゃない。
桃に触れる時は特に気をつけている。
だけど、その桃に触れる時はどうしても余裕がない。
これ以上ないと云う位。
焦がれて、求めて、溶け合って。
それでも足りなくて、夢中になって。
自分すらも見失う。
だから、つい力が入り過ぎて…


「わざとじゃないんですから」


「…わざとじゃないから、イヤなんだ」


知らぬ間に、桃を傷付けている。
それが嫌だ。
だから思う。
俺が普通の人なら、地球人なら、と。


「じゃあ、わざとじゃなかったらいいんですか?」


「そういう事じゃ…」


やっぱり笑いながら言う桃に、俺は口を尖らせて言い返そうとした。
が、それは出来なかった。
こつん、と額に触れる何か。
それが何なのか理解する前に、俺の視界は優しく温かな瞳が占めていた。
鼻腔を通る甘い香り。
口を掠める吐息。
瞬間、息が止まった。


「私は、今のままが一番です」


「どうして?やっぱり、信じてないのかナ」


動揺を必死に隠す。
普通に普通に、と念じながら軽口を叩く。
肩にあった手に力が入った。
ん?肩に手?
と、思ってやっと現状が見えてきた。
桃は俺の足を跨いで膝立ちの姿勢で肩に手を置いている。
いや、力を込めているから掴んでいると云う方が正しい。
なんか…すごくエロいんだけど。
恥ずかしがりなのに、こういう事を平気でしちゃうんだよね。
桃は、俺がちょっとムラッとキてるなんて気付く訳もなくて。
本当、無防備で安心しきった顔で笑った。


「私は今が一番です。神威さんの声が聞けて、話せて…喧嘩もしたり、こんな風に触れ合えたり…それに、」


「…それに?」


止まってしまった言葉。
動揺からはすっかり立ち直ったから、少し意地悪する。
細い体を抱き寄せながら、俺より高い位置にある唇に自分のを近付けた。
もう殆ど触れ合っている様な距離で、続きを催促する。
狼狽える桃を可愛いなぁって余裕で堪能していると仕返しされた。


「……えて…」


「なに?」


「ぁ、の…わ、私といるんですから…私の事だけ、考えて?」


「…………煽ったの、桃だからね」


「ふぇ?ひゃあっ!」


残っていた気遣い、っていう理性は消えた。
だって、桃が悪いんだもん。
押し倒しながら、痣になっているであろう左手首にキスした。
ごめんって気持ちを込めて。
すると、桃は俺の手を掴む。
やっぱり、キツいのかな。
拒否されるのかと思いながら、とりあえず桃の好きにさせる。
と、俺の右手は桃の左手としっかり繋がれた。
俺が不思議そうにしてると、桃は目をうるうるさせながら笑って…


「手、繋げば、っ…大丈夫、ですよ?」


あぁ、本当に敵わない。





例えば、なんて考えないで。
私を、愛して?




《痛みよりも》
終わり
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