みじかいよみもの

□秋桜の喪失
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「ゃ、…みな、ぃでっ」


かぁっ、と熱が沸き上がる。
ロマーノに触れられるのは心地良い。
大きな腕に抱き締められると、心の底から安心する。
落とされる口づけは、綿みたいに優しい。
でも、こんな風に触れられるのは…
知らない。
自分が、こんな声を出せるなんて。
頭がおかしくなる程、何かを感じるなんて。
桃は腕で顔を隠す。
あぁ、そうだ、と思う。
ロマーノがこんな風に触れてきたのは初めてなのだ。
不安にならないの?
と、友に言われた事がある。
付き合う、という事自体が初めてだから分からない、のだ。
その、手を出されなくて、嫌だとか。
本当に好きなのだろうか、とか。
傍にいれれば嬉しくて、そんな風に考えなかった。
いや、そう考えない様にしていたのかもしれない。

ロマーノは自分などより、長い刻を生きてきたから…。

だから、今のままで十分だと…


「見ない訳ないだろ」


ずっと、見たかったんだから。
外された腕。
瞑ったままにしておけばよかったものを。
桃はロマーノの切ない声に瞼を開いてしまった。
視線の先には、苦しそうな顔をしている男がいた。
知らない。
知らない、男の人の顔。
ロマーノさん。
眼差しに耐えれず、桃は震える声で呼んだ。
ロマーノは目を細め、ゆるりと口を開く。


「欲しい…」


「ほ、しい?」


「お前が…桃が欲しい。髪も、目も、口も、手も、足も…全部…全部、欲しい」


「な、」


「俺は、国だ。でも、男なんだ。好きな女に恋い焦がれるバカな男だ」


「ろ、ま、んっ」


ぱくり。
と、食べられる様に桃の唇は奪われた。
桃の大きな瞳が更に大きくなる。
落とされた口づけには、いつもの綿みたいな優しさなどない。
本当に、食べられる様な。
するり、と侵入ってきた熱いもの。
それが閉じた歯を撫でる。
あぁ、なんて事だろう。
心地が良い。
そう、桃は感じてしまった。
だから、零れてしまった。
ぁ、と。
声が。


「んぅ?!」


開いた歯の隙間。
それから、また侵入ってきた。
それ、が。
ロマーノの舌が、桃の舌を絡めとる。
絡められて、吸われて。
くちゅり。
そんな音が遠くで聞こえた気がした。
いつの間にか、目を固く瞑っていた桃。

どうすれば、いい?
拒めば良いのか。
しかし、それは出来たらしている。
逃れようと顔を逸らしたが、両頬を包む手が阻む。
自由になった自分の手はロマーノを押し返していたが、無駄だった。

だから、どうすれば、と考える前に。
桃はされるがまま、受け入れるしかなくて。
いや、受け入れて、は、いない。
だって、あまりにも…


「あま…」


「は、っ、けほっ…けほっ…!」


「息、止めてたのか?…ったく」


Idiota.
そう言いながら、ロマーノは笑う。
口角を少し上げて、目を細める。
桃の好きな表情だ。
優しくて、溶ける様な、蕩ける様な。


「また、上の空…余裕だな」


「っ、ちが、っま、てっ」


再び近付いて来るロマーノを桃は両手で止める。
押し返す、事は出来ない。
しかし、ロマーノを止める事は出来た。
冗談ではない。
これ以上、こんな事をされたら…されたら…
どう、なるのだろう?
分からない。
分からない、から、


「怖いか?」


「わ、からなっ…変に、なるからっ」


分からない。
怖い、のだろうか?
自分の気持ちが分からない。
敢えて云うなら、変、なのだ。
嬉しいのか、切ないのか。
恥ずかしいと思うのに、触れて欲しいと思う。
でも、逃げ出したい。
頭の中がぐちゃぐちゃする。
桃はロマーノの胸板を押しながら、身体を動かした。
逃げ出したい、という気持ちが一番明確で分かりやすかった。
ロマーノの下から這い出した桃。
しかし、それを許すロマーノではない。


「逃げるな」


とん。
桃はロマーノと壁に挟まれた。
そして、驚く前に息が止められる。
今度はちゃんと息しろよ。
ロマーノが囁く。
無理だ、と桃は心の中で叫ぶ。
先程の事があるから、絶対口は開かないと念じる、が。


「ふぁっ!」


桃はあっさりと開いてしまった。
いや、あっさり、とは決して違うのだが。
結果的に、ロマーノの思惑通り。
ふにふにと直に揉まれている胸。
いつもふざけてセクハラしてくる乱菊にだってこんな風にされた事ない。
口内を乱されながら、胸も弄られて。
桃の思考は既に許容範囲を越えている、のに。
徐々に下りていく唇と手。


「ろ、ろま、のっ、さ、ぁっ…ま、待って!」


「わりぃ…もう、待てねー」


ロマーノが短く謝る。
しかし、謝りながら桃の全てに溺れていた。



 
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