07/01の日記

20:59
【時限記事】軍事境界線を越えて堅い握手―――板門店の瞬間

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 こんばんは。(º.-)☆ノ




 米国のトランプ大統領が、韓国の文在寅大統領とともに 38度線を越えて北側に入り、北朝鮮の金正恩委員長と握手したとのニュースが、きょう(6月30日)夕刻に伝えられました。⇒:時事通信 19:02

 ⇒:動画:軍事境界線を越えて金正恩と握手するトランプ



 おそらく、この会見を仲介したのは、文大統領ではなく、直前に北朝鮮を訪問して大阪でトランプ氏に会った中国の習近平主席でしょう。大阪での米中会談が、貿易衝突を終息させる方向で友好裏にまとまったことは、習主席が、金正恩との再会という“プレゼント”をトランプ氏にもたらしたことを推定させるからです。



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 1年前、≪南北共同宣言≫のときの【時限記事】で、私は、



〇 “非核化”に関しては、目標の合意にすぎない。「在韓米軍基地にいつでも数時間以内に核を持ち込めるアメリカの譲歩」がなければ、北朝鮮は核を放棄しないだろう。

〇 2018年中の終戦宣言と、可及的速やかな平和協定体制への転換が確認された。しかし、平和協定体制は、南北2国だけではできないことだ



 と書きました。

 最初の点に関しては、この間、完全に予想どおりに推移したといってよいでしょう。それは、今後についても言えます。最近日本語訳の出た太永浩氏の著書『三階書記室の暗号』によれば、北朝鮮が金日成時代に毛沢東の制止を振り切って核兵器開発を始めたのは、北朝鮮の民衆が、半島南半分にある米軍基地からの核攻撃を怖れて国外“避難”を始めたからでした。

 (このことを理解するためには、当時も今も北朝鮮は、日本・韓国・台湾とは異なって、中国とロシアの“核の傘”の下で保護されているわけではないことを、知る必要があるかもしれません。とくに、中国の毛沢東は、当時各国共産党の訪問団に対して、世界核戦争を引き起こして中国だけが生き残る、そうすれば資本主義国も“修正主義”国も地上から消滅すると明言していました。イタリア共産党のトリアッティが回顧録に書いています。つまり、毛沢東は、アメリカだけでなく、北朝鮮もイタリアもソ連も、核戦争で消滅して構わないし、消滅すべきだと考えていたのです。北朝鮮をアメリカの核から守るつもりがないことは、今の中国も同じでしょう。

  また、“丸腰”の民衆にとって“核”の脅威がいかに巨きなものであるかは、“自爆”の特攻攻撃をつづけ“本土決戦”をも辞さなかった日本が、2回の原爆投下を受けたとたんに、やすやすと降伏したことを想起しても解るでしょう。)

 北朝鮮自身が“武力統一”を目指して南進を始めないかぎり、アメリカが核攻撃などしてこないことは、北朝鮮の首脳部がもっともよく知っていました。しかし、一般民衆は、そうではありません。ウソを信じたふりをしなければ何をされるかわからない体制のもと、長年締めつけられてきた人びとは、政府が何を言ってなだめすかそうとも、心のなかでは決して信じようとはしません。民衆には、“目に見えるもの”が必要なのです。

 北朝鮮の核開発は、政権に対する“人民”の最後の信頼をつなぎとめるための、政権にとっても最後の命綱です。それを放棄することは、彼らの体制そのものの瓦解を意味すると、彼らは考えています。それを放棄することなど、――北朝鮮の民衆を納得させられるような安心材料がほかに生じないかぎり――できるはずはないのです。

 逆にいえば、じっさいに核兵器を用いて戦争することなど想定していないのだから(金正恩自身が昨年の南北会談の際に、そう漏らしてしまいました)、見かけだけでよい、民衆の信じる“悪役”の頭の上を飛んでゆくところを見せられればよい。実戦に使えないような出来損ないであっても、まったく構わないのだ―――とも言えます。

 核開発にかぎらず、北朝鮮政権の政策は、どれもこれも、それが“人民”を抑えつけて、かつその“最後の信頼”をつなぎとめるためになされていると考えれば、よく理解できることばかりでしょう。アメリカのトランプ大統領との会談“ショー”を華やかにみせびらかしたかと思うと、“アメリカ帝国主義”への罵詈雑言の批判も、あいかわらず声高に唱える。外交的には支離滅裂に見えるこれらの行動も、国内“人民”向けに演じている“なりふり”かまわぬアジテーションとして見れば、まったく筋が通っているのです。

 そういうわけで、“非核化”も、北朝鮮の開放経済も、日本の拉致問題解決も、とうていすぐには入口を見いだせない状況が、今後も続くでしょう。しかし、逆に最悪の事態――爆撃、交戦など――に陥る恐れは、まったく無いと言えます。少なくともトランプ政権のあいだは、そういえます。

 もっとも、アメリカが今後、民主党政権になった場合にどうなるかは、不透明です。民主党政権が結果として平和を維持できるかどうかは、何ともいえません。(たとえば、ベトナム戦争をエスカレートさせたのは民主党政権であり、終息させたのは共和党政権でした!)これは巨きな逆説です。なぜそうなるのかと言えば、トランプを含めて、アメリカ人はあまりにも東アジアを知らないからです。中東は知りすぎるほど知っていても、東アジアを知ろうとはしないのです。

 1年前に“予言”した第2の点、平和協定体制への転換に関しては、予想に反して、あまり進んではいないと言えます。その理由は、予想以上に≪制裁≫の効果が現れて、北朝鮮が、平和協定などよりも緊急に、あわよくば≪制裁≫解除、それが無理でも“食糧援助”をぜひとも必要とするようになったためです。

 北の政権がいま必要としている“食糧援助”は、もちろん、海外の人道主義団体が差し伸べようとしているような、飢餓線上の民衆への援助などではありません。具体的には、もっとも必要としているのは、軍の備蓄米の補充です。交戦状態となった場合を想定して備蓄している、軍と政権上層部の生命を維持するための食糧です。

 北朝鮮政権は、この間、極秘に軍の備蓄米を取り崩して、市場に放出してきました。水害等による飢饉にもかかわらず、市場で米価が安定している(騰貴していない)ことから、この放出の推定はまちがえないと思われます。政権は、人心を安定させるためには、どうしてもそうしなければならない局面に追い込まれているのだ(★)と、考えなければなりません。そのために、軍の備蓄米は、いま枯渇に近い状態になっていることが推定できます。

註(★) ほかにもさまざまな意見があります。軍や政府がコメを放出しているわけではなく、米価が上がらないのは、人びとにコメを買う資力(有効需要)がないからだという見解もあります。しかし、それなら麦や雑穀の値段が上がるはずですが(需要の下方シフト)、これらの価格も安定しているようです。軍のコメ放出を認めながら、その動機は、≪制裁≫による輸出の落ち込みで外貨が不足した政府が、民間の外貨を吸収するためだとする見解もあります。その場合には、援助物資が同じ目的で利用されるかもしれません。
太永浩氏の著書 pp.251-254 を見ると、平壌で 2009年末に起きた“米騒動”による貨幣改革(デノミネーション)の失墜について書かれています。市場と店舗の総罷業(ゼネスト)に近いもので、氏によれば、これは市民の集団的抵抗でした。「この騒動のあと、北朝鮮は経済問題に関する限り、もはや国民に強制することができなくなった。」また、この箇所を読むと、配給制と闇市場の二本立てによる北朝鮮経済の実態がよくわかります。当時、北東部咸興でもデノミに抗議する「商人らによる暴動」が起きたとの報道がありました。


 主食糧のなかで、もっとも保存がきくのはコメであり、その次が、挽いていない粒の麦、保存がきかないのは小麦粉です。海外の人道主義団体が供与するのは小麦粉などです。小麦粉ならば、軍の備蓄にされずに、飢餓線上の人びとの手に渡るからです。かつて、金正日時代の飢餓のときに、日本の人道主義団体(私もその一員でした)が供与したのは、飼料用トウモロコシの粉とアズキの粉でした。これらならば、備蓄にならないことはもちろん、まずくて、富裕層の口に入るおそれもなかったからです。(★)

 そういうわけで、北の政権が今必要としているのは、軍の備蓄用食糧であり、近ごろロシアが供与を約した小麦(小麦粉ではない!)、中国が約したコメ、いずれもその条件にかなうものです。その一方で、アメリカなどの人道主義団体が提示した妊婦救済の食糧は、平壌政権によって拒否されましたし、韓国がユニセフを通じて提供しようとしている食糧援助も、遅々として実施が進んでいません。

註(★) 当時、日本の有識者のなかでは、北に食糧援助をすると金政権に利用されるだけだから、すべきでないという意見が多くありました。日本共産党サイドからも、そういう意見を聞きました。現実に、流用は当時も今もあり、太永浩氏の本でも(氏が飢餓の子供を救うために募った援助が軍に流用され、氏は武力強化に尽くしたとして表彰されたなど)証言されています。しかし、援助物資のある部分は流用されながら、ある部分は、必要とする人々の手に届いていることも、多くの証言(たとえば↓下の◆)で明らかにされています。


 しかし、それでも、この間に、軍事境界線をはさんだ南北間の“平和維持”が継続されたことは、注目されます。ハノイでの“米朝決裂”のあとでも、この点だけは、もとの軍事緊張状態に戻ることはありませんでした。これまでしばしばしば繰り返されてきた、北朝鮮軍の機雷等による攻撃(★)は、まったく見られなくなり、軍事境界線を間に挟んだ双方の“宣伝放送”は無くなり、北の工作員の越南も発見されていません。6月、北朝鮮からの漂流漁船――じつは漂流を偽装した“亡命船”――が到着するのを、韓国政府と軍は黙認し――気づかなかったことになっているが、黙認としか思えない――、乗組員のうち2名の亡命を認め、上陸後に翻意した他2名は、北朝鮮に送り返しました。韓国の亡命受け入れに対して、北朝鮮は抗議の声ひとつ上げていないのです。(ちなみに、そのすぐ前に、日本の海上保安庁は、竹島付近で救助された北朝鮮漁船の乗組員全員を、北朝鮮側に引き渡しています。)

註(★) 機雷攻撃:2010年3月「天安事件」:韓国の哨戒艇が黄海上の境界線付近で北朝鮮の機雷によって沈没。その首謀者は、北朝鮮軍部きってのタカ派金英哲だと目されていました。金英哲!―――金正恩の腹心として 2019年2月ハノイまでの対米交渉を担当していたことは記憶に新しい。それゆえ、北側の融和的態度は見せかけだとの意見が、韓国野党スジでは一貫して根強いのです。


 非核化も、「平和協定」への道も、遅々として今後も進まないでしょう。しかし、南北間の平和は、韓国と米国の政権が交替して大きく政策を変えることがないかぎり、維持されてゆくでしょう。なぜなら、それが結局は、自らの体制の維持にもっとも資することを、北朝鮮の専制支配者たちは理解しているからです。

 なお、拉致問題の先行きが気になる向きは、上にリンクを張った太永浩氏のブログや、『文藝春秋』最新号のインタビュー記事を参照してください。「こうすれば北朝鮮は拉致被害者を返して来る」という処方箋が書いてあります。私も、それはかなり現実性のある提案―――しかし結局日本の政権にはそれをする意志も能力もない(◆)―――だと思いました。

註(◆) 北朝鮮では、政権の公式見解とは別に、もともと人びとの対米感情はたいへん良いのです。今回の“握手”のような電撃的な融和が起こりうる背景には、北朝鮮一般のアメリカ人への好感があります。テッサ=モーリス・鈴木『北朝鮮へのエクソダス』によれば、好感の理由は、たびたび届けられた援助物資を見ているからだといいます。星条旗が印刷された小麦粉の袋をなつかしく思い出す脱北者は多い。もしも日本が――政府でなくとも民間団体でも――、米国に匹敵する食糧援助を今までに行なっていたとしたら、拉致問題の解決も“対話”の道も、ずっと容易に開かれたはずなのです。








 (この記事は時限公開とします)







 
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カテゴリ: BL週記

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