09/26の日記

18:48
【ユーラシア】ルバイヤート――中世ペルシャのBL詩

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 こんばんは。(º.-)☆ノ





   金子民雄『ルバイヤートの謎』,集英社新書。





 さいきん↑この本を読んで、ちょっとBL関連の思いつきがあったので、書いてみることにしました。



 “ルバイヤート”(発音は‘ルバーイヤート’らしい)はペルシャの4行詩で、‘ルバーイヤート’はじつは複数形。単数形は‘ルバーイイ’だそうです。11-12世紀ころのオマル・ハイヤームという人のルバイヤートが世界的に有名なので、外国で(イラン以外の国で)ふつう“ルバイヤート”と言えば、この詩人のものを指すほどです。

 ハイヤーム自身は、その生きた時代には詩人としてではなく、天文学者、数学者として有名だった人で、3次方程式の解法の証明や、太陽暦の考案で功績があったそうです。

 詩作は、学者の余技―――というより内密にしていたようで、それというのも、彼のルバイヤートは、イスラム教の教義や、正統とされるイスラム哲学からは遥かに逸脱した内容のものが多かったのでした。

 作者の生前には表立って公表されず、死後に親しい友人たちの間に伝えられていた遺作が、長い間かかって集められ、「ハイヤームのルバイヤート」として編纂されたので、

 写本、異本として伝えられるものは何種類もあって、後代の人が真似をして作ったものや、贋作などがたくさん混じっています。そのため、いったいどれがハイヤームの作った本物なのか‥‥‥をめぐっては、現在でも論争が絶えないといいます。










 ともかく、まずは「ルバイヤート」から数首↓、BL関連で興味を引いたものを:




 時という召使いの告げ口なんかに、気を遣うでない、
 綺麗に着飾った酒姫
(サーキイ)よ、酒を注いでおくれ。
 彼らとて、一人また一人と世を去って行っては、
 だれも二度と戻って来た気配すらない。

金子民雄訳 #78 ※


 さあ酒姫
(サーキイ)よ、起きたまえ、もう夜が明けたよ、
 水晶の酒杯に紅
(くれない)の酒を注ぐのだ。
 この無常という廃屋の中で、借りものの一刻を捜そうたって、
 そりゃいくらやろうと見つけられっこないさ。

金子民雄訳 #60


 ときは暁 起きよ おお稀なる美少年
 玻璃の盃に紅
(くれない)の酒を酌め
 この一瞬は浮世の借りもの
 いかに求めても再び得られない

黒柳恒雄訳 #110 ※


 ときは暁 起きよ 佳
(よ)き人
 静かに酒を酌み 琴を爪弾け
 この世に長く留まる人はなく
 去った人はだれも戻らない

黒柳恒雄訳 #113


 わが心の偶像よ、さあ、朝だ、
 酒を持て、琴をつまびき、うたえ歌。
 千万のジャムシードやケイホスロウら
 夏が来て冬が行くまに土の中!

小川亮作訳 #116



※ 引用のルバイイの番号は、つぎの訳書によります:          

オマル・ハイヤーム著、金子民雄訳『ルバイヤート』,胡桃書房,2003.  

オマル・ハイヤーム著、黒柳恒雄訳註『ルバーイヤート』,大学書林,1983.

オマル・ハイヤーム著、小川亮作訳『ルバイヤート』,岩波文庫,改版1979.






 「酒姫
(サーキイ)」というのは女性ではなく、ペルシャの酒場などで酌をする少年なのだそうです:


「実を言えばこの酌婦の正体は男。それも多くは歳の頃 12,3歳から 16,7歳までの美少年だ。イスラム社会では女性が人前や宴席に出られなかったので、その代わりに思春期前後の少年が酌とりの役をしたのである。なかでもまだ髭の生えていない少年は、酒場で大変好まれたという。」

金子民雄『ルバイヤートの謎』,p.119.


 女性の酌どころか、酒を飲むこと自体がイスラム教では厳禁なのですから、ハイヤームの詩は、正統イスラム教徒から見れば、不道徳の極みだったことになります。

 ちなみに、この「紅
(くれない)の酒」は赤ワインです。

 上のルバイヤートでは、サーキイは、ハイヤームに酌をしたり琴を弾いたりする(酒場では踊りも踊ったようです)だけでなく、ハイヤームとともに床に寝て、夜明けが来ると共に起き出して、また共に酒を飲んでいます。

 つまり、ハイヤームにとっては、サーキイは同性愛の相手だったのではないかと考えたくなります。もちろん、そんなことが発覚すればイスラム教の下では死刑ですから、はっきりそうとは書けないのでしょうけれど。

 ちなみに、オマル・ハイヤームは、生涯独身でした。男は女を何人でも妻にできるイスラム教の社会で、しかも彼のように、国王付きの学者で金銭には不自由しない境遇で、まったく一度も結婚しなかったというのは‥ なにか理由があるのではないかと考えたくなります。。。



 黒柳訳110番は、金子訳60番とよく似ていて、異文と思われますが、こちらでははっきりと「稀なる美少年」と呼んでいます。

 また、黒柳訳113番で「佳
(よ)き人」と意訳されている‘マーイェイェ ナーズ’は、「なまめかしさの源」という意味だそうです。この詩も、黒柳訳110番、金子訳60番と内容が似ていますから、「佳き人」は、やはり同性の愛人ではないでしょうか。

 小川訳の「わが心の偶像」も同じでしょう。





  






 酌人
(サーキイ)よ 薔薇も若草も楽しくなった
 七日もすれば地に散ると知れ
 酒を飲み 薔薇を摘め 眺めているうちに
 薔薇は散り 若草は枯れよう

黒柳恒雄訳 #37



 ハイヤームのルバイヤートには、このように、人生のはかなさ、季節の自然と社会の移り行きの無常さを歌ったものが多いのですが、

 ↑このルバイイは、サーキイに対して移ろいの儚さを説いて、いまこの瞬間を楽しめと、同性の性愛への耽溺を促しているように読めます。「酒を飲み 薔薇を摘め」とは、‥手を触れずに眺めていると、薔薇はすぐに散ってしまうぞ、セックスを躊躇している時ではない――という意味に読めるのですが。。。





 人生の隊商は不思議に過ぎて行く
 楽しく過ぎるこの一瞬をつかめ
 酌人
(サーキイ)よ 友のあしたをなぜに悲しむ
 酒杯を持ち来たれ 夜も過ぎて行く

黒柳恒雄訳 #66


 「友」と意訳されている‘ハリーフ’は、「好敵手,ライバル」という意味だそうです。この「友」がハイヤーム自身を指すのだとすると、ハイヤームとサーキイとの関係は、単なる往き過ぎの客と「酌人」の関係ではないように思われます。むしろ、ともに楽しみ悲しむ対等な愛人同士の関係なのではないか?‥





 生
(き)の酒がなくては生きておれない
 酒なくしては 身の重荷に堪えられない
 酌人
(サーキイ)がもう一杯と言う瞬間の
 私は奴隷だ 堪
(こた)えられない
黒柳恒雄訳 #132



 ハイヤームは酒におぼれているのでしょうか?‥それ以上に、サーキイとの“愛”に耽溺しているのではないか?そう考えたくなります。



  






 酌人
(サーキイ)よ いつまで5と4について話すのか 
 酌人
(サーキイ)よ 問題が1つであろうが 10万でも
 酌人
(サーキイ)よ われらはみな土 竪琴を弾け
 酌人
(サーキイ)よ われらはみな風 酒を持ちきたれ
黒柳恒雄訳 #168

★「5と4について話す」:「5」は五感。「4」は四大元素(土、風、火、水)。心理学や自然哲学について議論すること。




 4つの詩行が全部「‥‥サーキイよ」で韻を踏んでいる詩ですが、

 サーキイは、ハイヤームと数学や哲学の話題について話すこともあったようです。ハイヤームのサーキイは、単なる酌をする小僧などではなく、相当に教養があったのだと思わなくてはなりません。あるいは‥‥ハイヤームとの付き合いの中で、学問の手ほどきを受け、啓発されていたかもしれません。

 いずれにせよ、サーキイの青年は、この学者の相手としては女性よりも「好敵手」だったのでしょう。




 この道を歩んで行った人たちは、ねえ酒姫
(サーキイ)
 もうあの誇らしい地のふところに臥したよ。
 酒をのんで、おれの言うことをききたまえ――
 あの人たちの言ったことはただの風だよ。

小川亮作訳 #13


 一壺の紅の酒、一巻の歌さえあれば、
 それにただ命をつなぐ糧
(かて)さえあれば、
 君とともにたとえ荒屋
(あばらや)に住もうとも、
 心は王侯
(スルタン)の栄華にまさるたのしさ!
小川亮作訳 #98


 酒姫
(サーキイ)の心づくしでとりとめたおれの命、
 今はむなしく創世の論議も解けず、
 昨夜の酒も余すところわずかに一杯、
 さてあとはいつまでつづく? おれの命!

小川亮作訳 #100






ばいみ〜 ミ



 
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カテゴリ: ユーラシア

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