ゆらぐ蜉蝣文字


第9章 《えぴ》
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9.3.20


この時に、もっと大事をとっていれば、トシは早逝しないで済んだかもしれない。拙速な花巻帰還と、無理な女学校勤務が、妹の命を縮めた──賢治には、そんな悔恨があったのではないでしょうか。

そして、キリスト教信仰に慰安を求めた点でも、トシと琴子は共通していた可能性があります。

書簡末尾の:

「とし子にも、よろくし[ママ]おねがひいたします。」

という母への添え書きは、兄・賢治が、東京へ出奔して以来半年目に、初めて(そして在京中ただ一度)妹の安否に言及した手紙の文なのです。。。

ともかく、詳しい具体的な事情については家族との間でも沈黙を守り、詩と童話という極めて象徴的な手段と曖昧な表現によってしか、賢治も書き残せなかったほど、夭折した二人の女性をめぐる「家族組織、社会組織の不完全」は、深く強固であったのです。。。



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