ゆらぐ蜉蝣文字


第9章 《えぴ》
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9.3.7


 (3) 砂の十字架 ⇒:7.6.30 「オホーツク挽歌」

【68】「オホーツク挽歌」には、十字架のモチーフの現れる箇所がありますが、それは、作者の回想の中で、トシが“棒で "HELL" を "LOVE" に直すパズル”をして見せる場面です:

. 春と修羅・初版本

78ここから今朝舟が滑つて行つたのだ
79砂に刻まれたその船底の痕と
80巨きな横の台木のくぼみ
81それはひとつの曲つた十字架だ
82幾本かの小さな木片で
83HELL と書きそれを LOVE となほし
84ひとつの十字架をたてることは
85よくたれでもがやる技術なので
86とし子がそれをならべたとき
87わたくしはつめたくわらつた
88  (貝がひときれ砂にうづもれ
89   白いそのふちばかり出てゐる)
90やうやく乾いたばかりのこまかな砂が
91この十字架の刻みのなかをながれ
92いまはもうどんどん流れてゐる

ギトンは、このトシの“パズル”と、それを作者が見て「つめたくわらつた」意味を理解するためにも、まず、この“パズル”自体が分からなくては‥ というように考えます。ところが、世の多くの読者も研究家も、そういう筋道で考えようとはしないようです…。“パズル”自体は置いておいて、いきなり、「つめたくわらつた」意味の説明を始めるのです。。。

と、まぁ文句を言っていてもしかたがないので、ギトンはギトンのやり方で進めることにしたいと思います。

“パズル”である以上、問いがあって、答えがあるはずです。マッチ棒を並べ替えて解かせるパズルがよくありますから、その一種だと思うのですが、残念ながら、このパズルは聞いたことがありません。

出題のほうは、棒をならべて "HELL" と書けばよいのでしょう。できるだけ簡単に、少ない本数で "HELL" とならべてみますと、↓つぎのようになりますが、これでは、どうしても "LOVE" に直すことができません:





"HELL" に使う棒の数は11本。しかし、"LOVE" には12本必要で、1本足りません。さらに、「十字架」も立てなければならないのです。棒を折るのは反則でしょう。

よく見ると、↑上の文字の形は、みな、横幅が広すぎて、ずんぐりしてます。そこで、棒の数を増やして、もう少しスマートな文字の形にしてみたら、どうか‥





たしかに、少し無理をすれば、"LOVE" と書けないことはありません(↑解答@)。O とV が小文字になってしまいましたが、"LovE" と書けて2本あまりましたから、"+" 小さな十字架もできました。

もっときれいにできないものかと考えてみたのが解答Aで、"LOVE" を全部小さい字にして、あまった4本で大きめの十字架を作ります。

@とA以外に、答えを全部小文字の "love" にして、棒の数をあわせることもできますが、「オホーツク挽歌」の「それを LOVE となほし」という表記には合わないかもしれません。
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