ゆらぐ蜉蝣文字


第9章 《えぴ》
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9.3.2


このように、隣村がジュンサイの産地でジュンサイを見なれているという事情があれば、深層心理をさぐるまでもなく、使い慣れた茶碗のもようを「じゅんさいのもよう」と呼んでもおかしくはありません。ひょっとすると、賢治だけではなく、トシも、ほかの家族も含めて、この茶碗のもようを「じゅんさいのもよう」と呼びならわしていたかもしれません。

それでは、じっさいに、「青い蓴菜のもやう」「みなれたちやわんのこの藍のもやう」とは、どんな模様なのかですが‥、ジュンサイの丸い葉なのか?花なのか?食べる芽の部分なのか?‥:画像ファイル・ジュンサイ

これ以上になると、(関係者がみな物故している今日では)客観的に模様を推定する手がかりは、まず無さそうです。読者それぞれにイメージをふくらませて、おたがいに、また、賢治のテキストと、擦りあわせてみるよりほかにアプローチの方法はないでしょう。

ギトンの持っているイメージは、「藍色の呉須の釉薬が、点滴状に流れたありふれた模様」という小野氏の想像に近いものだと思います。「呉須」とは、辞書によりますと:

呉須 ごす 焼物の染付に用いる,コバルト化合物を含む鉱物の名。‥原石は黒ずんだ青緑色。粉末にし,水に溶いて磁器に文様を描き,上に釉(うわぐすり)をかけて焼くと藍色に発色する。」
(ブリタニカ)

とあります。つまり、藍色のコバルトで簡単な絵を描いたセトモノで、安物の茶碗や小皿などによくあります。

ギトンも、そういうものだと思うのです。そこで、自分の“ジュンサイもよう”のイメージに近い画像を探してならべてみたのですが。。。どうですか?:画像ファイル・「青い蓴菜」の茶碗

結果的には唐草模様が多くなりましたが、模様は何でもよいように思います。むしろ、コバルトの染付けが釉(うわぐすり)に滲んで、ぼやっとした感じ、また、いくつかの曲線と小さい花か葉のような図形で、ジュンサイの・あのぬめりのある植物体を思わせる図案であれば、よいのではないか?‥ギトンの頭にある「じゅんさいのもやう」のイメージは、そんなところです。

みなさんは、いかがでしょうか?



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