ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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    【77】 宗教風の恋


8.3.1


「宗教風の恋」は、「雲とはんのき」の次に並んでいますが、「雲とはんのき」は、【印刷用原稿】に前後の諸作品が編集されたあとで、追加挿入されたものです。

したがって、清書時期から言っても、また、内容的にも、「宗教風の恋」は、【75】「不貪慾戒」に続くものです。つまり、「不貪慾戒」と同様の禁欲的・現実的な方向を示しています。

「宗教風の恋」は、このあとの「風景とオルゴール」「風の偏倚」「昴」の3篇とともに、1923年9月16日の日付を持っています。
この日は日曜日で、賢治は、花巻近郊の大沢温泉に出かけたようです。

大沢温泉は、花巻市の西郊、豊沢川の谷間にある温泉場で、渓谷に沿ってさらに奥には鉛温泉、「なめとこ山」など、宮沢賢治作品ゆかりの場所があります:画像ファイル:大沢温泉 Wiki: [大沢温泉(岩手県)] 大沢温泉公式HP 地図:大沢温泉

↑画像ファイルに写真を出した「自炊部」が、昔からある温泉場の建物のようです。

「宗教風の恋」には、場所の手がかりになるものが詠み込まれていないのですが‥、やはりこれも、9月16日の“大沢温泉行”の一部、おそらくは、往路でのスケッチだと思います。

というのは:

. 春と修羅・初版本

01がさがさした稻もやさしい油緑(ゆりよく)に熟し
02西ならあんな暗い立派な霧でいつぱい
03草穂はいちめん風で波立つてゐるのに

1行目は、「不貪慾戒」の:

. 春と修羅・初版本

09粗剛なオリザサチバといふ植物の人工群落が
10タアナアさへもほしがりさうな
11上等のさらどの色になつてゐることは

と同様の水田の描写ですが、昼間のようです。2行目から、西に山地があるのが分かります。
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