ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.14.7


聴きついでに、もひとつ聴いときましょうか(笑)。ゼッタイに飽きさせない演奏はこちら!:Beethoven Symphony #5 in c minor, Op.67, Movement 4, Herbert von Karajan (8:47)






. 春と修羅・初版本

17あヽ Josef Pasternack の指揮する
18この冬の銀河輕便鐵道は
19幾重のあえかな氷をくぐり
20(でんしんばしらの赤い碍子と松の森)
21にせものの金のメタルをぶらさげて
22茶いろの瞳をりんと張り
23つめたく青らむ天椀の下
24うららかな雪の臺地を急ぐもの

「(でんしんばしらの赤い碍子と松の森)」──「赤い碍子」は【82】「火薬と紙幣」にありましたが、高圧送電線の電柱です。ところで、「でんしんばしら」と「松の森」、どちらも嘉内を想起させます:

「落ちかゝる
 そらのしたとて
 電信のはしらよりそふ
 青山のせな」
(『アザリア』第3号, 賢治)

「雪の夜の電信バシラのおののきにふるひて吠える犬がありたり」
(『アザリア』第5号, 嘉内)

「あはれきみがまなざしのはて
 むくつけき
 松の林と土耳古玉の天と」
(歌稿B #710b711)

しかし、「冬と銀河ステーシヨン」では、ふたりのつながりを証す二連の電信柱も、保阪の無念の嘆きを象徴する松林も、おとなしく納まっています。

「にせものの金のメタルをぶらさげて」もいいですね。真鍮か何かでこさえた‘にせ金’のメダル。
「銀河軽便鉄道」のモデルになった岩手軽便鉄道は、国鉄よりも狭軌道で、“トロッコに毛が生えた”ような列車だったそうです。今にも脱線してしまいそうな田舎のおんぼろ機関車がガタピシ走ってる感じが、この詩の持ち味だと思うんですね。あの童話の大作とは一味違う「銀河鉄道」が、ここにあります。

「天椀」は、空の青天井。冬の青空が広がっています。

「うららかな雪の臺地」:冒頭に、雪原から陽炎が上がっていましたが、昼間は日に照らされて小春の麗らかさになります。
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