ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.14.6


. 春と修羅・初版本

14(はんの木とまばゆい雲のアルコホル
15 あすこにやどりぎの黄金のゴールが
16 さめざめとしてひかつてもいい)

ハンノキは、川岸や田んぼの脇に多い樹ですが、今は葉が落ちて枯木になっています。

「アルコホル」は、ドイツ語で“アルコール”のこと。

「ゴール」と言うと、ふつうは“虫(ちゅう)えい”“虫こぶ”のことなのですが、宮沢賢治の言う「ゴール」は、そうではないようなのです。「黄金(キン)のゴール」は、ヤドリギの‘まり’を指しています:画像ファイル・ヤドリギ

ヤドリギは、クリ、ナラなど大きな樹木の枝に付く寄生植物ですが、自分の葉でも光合成をします。

冬でも葉があって、赤い実を付けるので、西洋では、クリスマスの飾り付けにします。
北欧神話に基づいた習慣で、‘クリスマスにヤドリギの下で出会ったらキスしなければならない’。あるいは、ゲームで、目当ての相手をヤドリギの下に来させることができたら、キスして良いとか‥国によっていろいろですが、愛と関係の深い樹です。

宮沢賢治はヤドリギの飾り付けを好んだらしく、堀籠教諭の結婚披露宴でヤドリギを飾ったり、卒業後分校教師になって遠野の奥に赴任した教え子に頼んで、ヤドリギを送らせたりしています。

↓つぎの「ゴール」もヤドリギです:

「みんなは丘のいたゞき近く
 黄金のゴールを梢につけた
 大きな栗の陰影に来て」
(#75「北上山地の春」下書稿(三),1924.4.20.)

ヤドリギは、山の樹に多く、土沢のような平地には、あまり無いかもしれません。なので、「あすこに‥ひかつてもいい」という言い方になるのでしょう。

「さめざめ」は、辞書を引くと:

[副詞] @ 涙を流し,声をしのばせて泣くさま。A しみじみと言うさま。しんみりと。つくづくと。

などと書いてありますが、ここでは、「さめざめとして」とありますから、副詞ではなく、「さめざめとした」という‘形容詞’です。意味は、「冷め冷め」あるいは「覚め覚め」の文字どおりの意味だと思います。つまり、“冷たそうな,冷えきった;目も覚めるような,まばゆい”ということになります。

ともかく、こんなところにも《冷たい》精神が表れています。

. 春と修羅・初版本

17あヽ Josef Pasternack の 指揮する
18この冬の銀河輕便鐵道は
19幾重のあえかな氷をくぐり
    〔…〕
23つめたく青らむ天椀の下
24うららかな雪の臺地を急ぐもの

「指揮する」の前の空白は印刷のミスです。

「Josef Pasternack」:ジョゼフ・アレクサンダー・パスターナックは、ポーランド生まれのアメリカの指揮者ですが、1917年にヴィクター・コンサート・オーケストラを指揮して吹き込んだベートーベン第5交響曲のSPレコードが出ていました::Josef Pasternack conducts Beethoven Symphony 5, movement 4 (1917) 8:41 Josef Pasternack conducts Beethoven Symphony 5, movement 4 (1917) 8:41 (2つの内容は同じです)

序奏で頭が痛くなったひとは(笑)、3:50 から聴いてみてください。たしかに音は悪いけど、演奏はいいですよ。

とにかく、これが……宮澤賢治が夢中になって聴いたという・あのベートーベンのレコードらしいんですよw
いやあ〜もう〜感激しましたっ!! 胸がドキドキする!!

音楽を聴いてもらえば説明は要らないでしょう(笑)「幾重のあえかな氷をくぐり」の意味、なんとなく分かった気になりました!←で済ましたら、お茶濁しですかね?。。。

やっぱり古いレコードは。。。 という方のために、聴き直し。こちらで頭痛を治してくださいw レオナード・バーンスタインの楽しい演奏を選んでみました↓
. BEETHOVEN - Symphony No. 5 - Leonard Bernstein (4) Ludwig van Beethoven (1770 - 1827) Symphony no. 5 in C minor, Op. 67 IV Allegro; Wiener Philharmoniker, Leonard Bernstein. Konzerthaus, Vienna, 1977. (11:46)

こちらのブログの解説もぜひ⇒:いいたい砲台 Grosse Valley Note
.
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