ゆらぐ蜉蝣文字
□第8章 風景とオルゴール
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《Ca》 ベーリング鉄道の電柱列
【85】 一本木野
8.11.1
「一本木野」は、1923年10月28日(日曜日)付。
「一本木野」は、岩手山東麓の滝沢村にあった広大な原野です:地図・一本木野
作者は、この日、東北本線滝沢駅で下車。いつもなら、柳沢登山道をまっすぐに岩手山へ向かうのですが、
この日は、途中の岩手山神社・社務所のある柳沢付近で、北寄りに折れ、「一本木野」を横断して、《焼走り溶岩流》へと向かいます。
原野の横断行のスケッチが、この「一本木野」、《焼走り》でのスケッチが、次の「鎔岩流」です。
. 春と修羅・初版本
01松がいきなり明るくなつて
02のはらがぱつとひらければ
03かぎりなくかぎりなくかれくさは日に燃え
04電信ばしらはやさしく白い碍子をつらね
05ベーリング市までつづくとおもはれる
この作品「一本木野」は、非常に形の整った詩です。
最初から18行目まで、つまり「(おい かしは」の前までが叙景描写;
3字下げの“呼びかけ”をまたいで22行目から、次の“呼びかけ”「(おい やまのたばこの木」の前(26行目)までが、作者の独白ないし感想;
そして、30行目以下が自己認識の表明です。
つまり、前半18行が外界の叙景、
後半18行が内心の表白となっているわけです☆
☆(注) 小沢俊郎「森やのはらのこひびと」,in:『小沢俊郎 宮澤賢治論集 2 口語詩研究』,1987,有精堂出版,pp.40,42. 心象スケッチの多くは、叙景描写の中に、内心のつぶやきが括弧つきで挿入され、内心の表白の合間に外界の風景が字下げで入り込み──といった混合状態がふつうなのですが、この詩は珍しく、整理された構成を持っています。
スケッチの場所は、薄暗い林地から、明るい草原に出たところ‥‥小沢氏は、柳沢付近での作とされていますが、描かれた薬師岳や鞍掛山の形(15-17行)から推定すると、一本木野を焼走りに向かって相当歩いてからのスケッチと思われます。
03かぎりなくかぎりなくかれくさは日に燃え
04電信ばしらはやさしく白い碍子をつらね
05ベーリング市までつづくとおもはれる
06すみわたる海蒼(かいさう)の天と
「かぎりなくかぎりなくかれくさは日に燃え」──という、波打つ草の広がりそのもののようなゆったりしたリズムに続いて、
遠く北極圏まで続いて行くような電信柱の列、そして「すみわたる海蒼の天」。「海蒼」は海の青い色でしょう★
★(注) 『春と修羅(第二集)』の次のスケッチは、青函連絡船から見た津軽海峡を描いています:「古びた緑青いろの半島/……/その突端と青い島とのさけめから/ひとつの漁船がまばゆく尖って現はれる//波は潜まりきらびやかな点々や/……/あるひは海蒼と銀との縞を織り」(#116「水の結婚」1924.5.19.,下書稿(1))
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