ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.8.7


. 春と修羅・初版本

10鳥はまた一つまみ、空からばら撒かれ
11一ぺんつめたい雲の下で展開し
12こんどは巧に引力の法則をつかつて
13遠いギリヤークの電線にあつまる

宮沢賢治の童話『サガレンと八月』☆に登場する《ギリヤークの犬神》は、身の毛もよだつ恐ろしいキャラクターです。

☆(注) 主人公のタネリ少年は、母親の言いつけを守らなかったばかりに、《ギリヤークの犬神》に捕らえられ、蟹の姿に変えられて、チョウザメの下男にされてしまいます。賢治研究家諸氏は、この『サガレンと八月』はギリヤークの民話に基いているのだと主張して、資料を探索しておられますが、目だった成果がないようです。ギトンは、むしろ、チェーホフの『サハリン島』に書かれている・ギリヤークがアイヌを奴隷にして使うという話にヒントを得ていると思います。

また、「小岩井農場・パート4」の:

29そのキルギス式の逞しい耕地の線が

といった表現も考え合わせると、
ここで言っている「ギリヤークの電線」とは、粗野で逞しい大きな送電柱列のイメージだと思います。

14   赤い碍子のうへにゐる
15   そのきのどくなすゞめども
16   口笛を吹きまた新らしい濃い空気を吸へば
17   たれでもみんなきのどくになる

「赤い碍子」:電気の碍子は白いものだと私たちは思っていますが、当時は赤い碍子もあったのです:画像ファイル:赤い碍子

この《初版本》のほかの作品を見ると:

「電信ばしらはやさしく白い碍子をつらね」
(一本木野)

「あゝ Josef Pasternack の 指揮する
 この冬の銀河輕便鐡道は
 幾重のあえかな氷をくぐり
(でんしんばしらの赤い碍子と松の森)」
(冬と銀河ステーション)

とあって、白い碍子も赤い碍子もあったことが分かります。



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